妊娠中の頻尿・尿もれ|「我慢するしかない」の前に知っておきたいことを医学的に整理【2026年版】

妊娠すると頻尿や尿もれは当たり前のことで、恥ずかしいから誰にも言えず我慢するしかない、と家族や周囲から言われたり、自分でもそう思い込んでいたりすることがあります。けれど日本産科婦人科学会や公的な健康情報では、妊娠中の頻尿の多くは体の自然な変化として整理される一方で、尿もれ(腹圧性尿失禁)には骨盤底筋のトレーニングがすすめられ、また排尿時の痛みや発熱をともなうものは「尿路感染」として区別して受診が必要と整理されています。この記事では、妊娠中の頻尿・尿もれがなぜ起こるとされているのか、暮らしのなかでできることは何か、そして「体の自然な変化」と「受診が必要なサイン」をどう見分けるかを、公的資料に沿ってやさしく整理します。

まず結論から

  • 妊娠中の頻尿の多くは、血液量の増加や大きくなった子宮による膀胱への圧迫など、体の自然な変化によるものと整理されています。
  • 尿もれの多くは「腹圧性尿失禁」と呼ばれるタイプで、骨盤底筋のトレーニングがすすめられています。妊娠中から、無理のない範囲で続けることがすすめられています。
  • いっぽうで、排尿時の痛み、残尿感、尿のにごりや血が混じる、発熱、背中や腰の痛みをともなうときは、頻尿ではなく「尿路感染(膀胱炎・腎盂腎炎)」の可能性があり、様子を見ずに受診が必要とされています。
  • 尿路感染は、妊娠中はとくに起こりやすいとされています。市販薬で自己判断せず、早めにかかりつけの産婦人科に相談してください。
  • 頻尿や尿もれは、恥ずかしがって我慢する必要のあるものではなく、健診の場で相談してよいことがらです。

妊娠中の頻尿は、なぜ起こるとされている?

「妊娠中はトイレが近くなるもの」とよく言われますが、これには体の側のいくつかの変化が関わっていると整理されています。「気の持ちよう」や「我慢が足りない」といった話ではありません。

血液の量が増え、つくられる尿も増える

妊娠すると、赤ちゃんに酸素や栄養を届けるために、体をめぐる血液の量が大きく増えていきます。腎臓はその血液から老廃物をこしとって尿をつくるため、つくられる尿の量自体も増えます。トイレの回数が増える背景には、こうした自然な変化があるとされています。

ホルモンの変化で、尿路がゆるむ

妊娠を支えるはたらきをするプロゲステロンというホルモンには、体の平滑筋(自分の意思では動かせない筋肉)をゆるめる作用があるとされています。この影響で、膀胱や尿の通り道もゆるみやすくなり、尿がたまる感覚や我慢のしやすさが変わることがあると考えられています。

大きくなった子宮が、膀胱を圧迫する

妊娠が進むと、大きくなった子宮が膀胱を上から押すようになります。とくに妊娠初期と、赤ちゃんが下りてくる後期に、頻尿を感じやすいと整理されています。中期は子宮がおなかのほうへ持ち上がるため、一時的に楽に感じる方もいます。時期によって感じ方が変わるのは、こうした位置関係の変化によるものと考えられています。

頻尿とあわせて知っておきたい「尿路感染」との違い

ここがいちばん大切なところです。トイレが近いだけの「体の自然な変化としての頻尿」と、治療が必要な「尿路感染」は、分けて考える必要があります。

妊娠中は、尿の量が増えることや体の変化から、膀胱や腎臓に細菌が入り込んで炎症を起こしやすい状態になると整理されています。これが膀胱炎や、さらに進んだ腎盂腎炎(じんうじんえん)と呼ばれる状態です。膀胱炎の段階で気づいて対応することが大切とされています。

次のようなサインがあるときは、単なる頻尿ではなく尿路感染の可能性があるため、様子を見ずに受診してください。

  • 排尿の終わりに、しみるような痛みがある
  • 出したばかりなのに、まだ残っている感じ(残尿感)が続く
  • 尿が白くにごる、いつもとにおいが違う、血が混じる
  • 発熱がある、背中や腰のあたりが痛む、寒気がする
  • 下腹部の痛みや、強い不快感が続く

とくに、発熱や背中・腰の痛みをともなうときは、炎症が腎臓のほうへ広がっているおそれがあり、早めの対応が必要とされています。妊娠中の尿路感染は、早めに治療することがすすめられています。「妊娠中の頻尿だから仕方ない」と思い込んで我慢し続けず、気になる症状があるときは受診してください。

また、膀胱炎かもしれないと感じても、市販の薬で自己判断で対処するのは避けたほうがよいとされています。妊娠中に使える薬・避けたい薬の考え方は、自己判断ではなく医師と相談して決めるのが安心です。くわしくは妊娠中の薬の記事も参考にしてください。

妊娠中・産後の「尿もれ」の考え方

くしゃみや咳、笑ったとき、重いものを持ったときなどに、思わず尿がもれてしまう。これは「腹圧性尿失禁」と呼ばれるタイプで、妊娠・出産をきっかけに自覚する人が多いと報告されています。恥ずかしいことでも、あなたの努力が足りないからでもありません。

妊娠中は、大きくなった子宮が膀胱を圧迫すること、そして、内臓を下から支えている「骨盤底筋」というハンモックのような筋肉に負担がかかることが、尿もれの背景にあるとされています。出産のときにもこの骨盤底筋には大きな負担がかかるため、産後しばらく尿もれが続くことがあります。

多くの場合、産後に体の回復が進むにつれて尿もれは軽くなっていくと整理されています。ただし、そのまま続いたり、気になったりする場合は、我慢せずに相談してよい症状です。

骨盤底筋トレーニングという選択肢

腹圧性の尿もれに対して、産科・泌尿器科の領域で広くすすめられているのが「骨盤底筋トレーニング」です。妊娠中から産後にかけて続けることがすすめられており、薬や器具を使わず、自分でできるのが特徴です。

やり方は、一般的に次のように説明されています。

  • あおむけ、または座った楽な姿勢で、体の力を抜きます。
  • 腟(ちつ)と肛門を、体の内側にそっと引き上げるように、きゅっとしめます。おしっこを途中で止めるようなイメージです。
  • 数秒キープしてから、ゆっくりゆるめます。これを何回か繰り返して1セットとし、1日に数セットを目安に、無理のない範囲で続けます。

おなかや太もも、おしりに力が入ってしまうと、うまく骨盤底筋に力が入りません。息は止めず、自然に呼吸しながら行うのがコツとされています。変化を感じられるまでには数週間から数か月かかることが多いとされているため、あせらず、歯みがきのように毎日の習慣に組み込んでいくとよいでしょう。

産後にトレーニングを始める場合は、体の回復が進み、痛みがおさまってからにしてください。悪露(おろ)や傷の状態には個人差があるため、開始の時期に迷うときは健診で相談すると安心です。産後の体の回復の流れは産後の体の回復スケジュール早見でも整理しています。

暮らしのなかでできること

頻尿や尿もれとうまく付き合うために、暮らしのなかで無理なくできることを整理します。どれも「こうしなければならない」というものではなく、つらいときの選択肢として考えてください。

水分は「控えすぎない」

トイレが近いからと、水分を極端に控える方がいますが、これはおすすめできません。妊娠中は水分が不足すると、脱水や便秘、そして尿路感染のリスクにつながることがあるとされています。のどのかわきを感じる前に、こまめに少しずつとるのが基本です。むくみや便秘が気になる方は、妊娠中のむくみの記事もあわせてご覧ください。

寝る前の水分は、量を調整する

夜間のトイレで睡眠が細切れになってつらいときは、日中はしっかりとり、寝る前の数時間だけ量を少し控えめにする、という調整のしかたもあります。水分を「一日を通してどう配分するか」という視点で考えると、無理なく調整しやすくなります。

尿意はためこみすぎない

尿を長くためこみすぎると、膀胱に負担がかかったり、尿路感染につながったりすることがあるとされています。行きたくなったら我慢しすぎず、外出前や就寝前にトイレをすませておく習慣も助けになります。

外出時は、下着やパッドで備えておく

尿もれが気になる時期は、吸水タイプの下着や、尿もれ用のパッドを使うことで、外出時の不安をやわらげることができます。生理用ナプキンとは吸収のしくみが異なるため、尿もれには専用のものを選ぶと快適に過ごしやすくなります。ドラッグストアやスーパーで手に入る、使い慣れたもので構いません。

体を冷やしすぎない

体が冷えると、トイレが近く感じられることがあります。夏の冷房や冷たい飲みもののとりすぎに気をつけ、下腹部や足もとを冷やしすぎないようにするのも、ひとつの工夫です。夏場の過ごし方は妊娠中の夏トラブル早見ガイドでも整理しています。

こんなときは、受診・相談を

次のようなときは、「妊娠中だから仕方ない」と自己判断せず、かかりつけの産婦人科に相談してください。

  • 排尿時の痛み、残尿感、尿のにごりや血尿など、膀胱炎を思わせる症状があるとき
  • 発熱や、背中・腰の痛み、寒気をともなうとき(早めの受診が必要とされています)
  • 尿もれが産後も続き、暮らしのなかで気になるとき
  • 骨盤底筋トレーニングの始め方ややり方に不安があるとき
  • 尿もれなのか、破水なのか区別がつかず不安なとき(水っぽいものが続けて出るときは、自己判断せず連絡を)

とくに最後の「尿もれと破水の見分け」は、家庭では判断が難しいことがあります。少量ずつでも水っぽいものが続く、量が多いといったときは、時間帯を問わず、かかりつけの産科に連絡して指示を受けてください。

まとめ:恥ずかしがらず、相談していいことがら

妊娠中の頻尿や尿もれの多くは、赤ちゃんを育てるために変化していく体の、自然な反応として整理されています。「我慢が足りない」わけでも、「だらしない」わけでもありません。いっぽうで、痛みや発熱をともなうものは尿路感染として区別され、受診が必要とされています。この「体の自然な変化」と「受診が必要なサイン」を見分ける目安を知っておくことが、いちばんの安心につながります。

頻尿も尿もれも、健診の場で相談してよいことがらです。デリケートに感じるテーマではありますが、ひとりで抱え込まず、気になることは医療者に言葉にしてみてください。

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参考にした主な情報源

  • 日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会「産婦人科診療ガイドライン(産科編)」
  • 厚生労働省研究班監修「女性の健康推進室 ヘルスケアラボ」
  • 日本泌尿器科学会(女性下部尿路症状・骨盤底筋トレーニングに関する一般向け情報)

Dr.つのみ|臨床系専門医が執筆・監修しています。

この記事は、公的機関の資料をもとに、一般的な情報を整理したものです。個々の妊娠経過の診断・治療や、個別の症状への対応に代わるものではありません。排尿時の痛み・発熱・血尿・強い腰背部痛があるとき、尿もれか破水か判断に迷うとき、気になる症状が続くときは、自己判断せず、かかりつけの産婦人科にご相談ください。

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