妊娠中の体重増加の目安が見直されました。「増えすぎてはいけない」という思い込みを、医学的根拠からやさしくほどきます。
まずお伝えしたいこと
妊娠中の体重について調べると、「増やしすぎは危険」「でもあまり増えないのもよくない」と、相反する情報がたくさん出てきて、どこを信じればいいのか迷いやすいテーマだと思います。健診のたびに数字を気にして、食べることが少し怖くなってしまう——そんな声も少なくありません。
実際、体重計の数字に一喜一憂してしまう方は少なくありません。
妊娠中の体重のことになると、ご家族や周囲の方、これまでの慣習のなかで「増えすぎてはいけない」という言葉をかけられ、強く気にしてしまう方が少なくありません。このサイトでは、そうした思い込みを、いま医学的にわかっているデータをもとに整理してお伝えしていきます。実はこの「増えすぎてはいけない」という考え方は、近年の医学では見直されてきています。
先に結論をお伝えします
長くなるので、大切なところを先にまとめます。
- 日本では長く「妊娠中は体重を増やしすぎないように」という指導が強めに行われてきましたが、2021年に日本産科婦人科学会がその目安を見直し、多くの方で増やしてよい量がむしろ引き上げられました。
- 新しい目安では、妊娠前に普通体重だった方で、おおよそ10〜13kgが一つの参考値とされています。
- 体重を厳しく管理する根拠は必ずしも十分ではない、と学会自身が認めており、個人差をふまえたゆるやかな指導が望ましいとされています。
- 増えすぎも、あまり増えないことも、それぞれに気をつけたい点はあります。大切なのは「数字を1つの目安として見つつ、極端に振れない」ことです。
- 体重は、かかりつけの産婦人科で経過を見てもらいながら付き合っていくものです。この記事は、その相談の前に全体像を知っていただくためのものです。
「太ってはいけない」という空気は、どこから来たのか
日本では長いあいだ、妊娠中の体重増加をかなり厳しく管理する文化がありました。健診のたびに体重を量られ、少し増えると注意される——そんな経験をした方は、決して少なくないと思います。
この背景には、体重が増えすぎると妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病などのリスクが上がるといった懸念がありました。これ自体は医学的に意味のある視点です。ただ、その指導が行きすぎてしまい、本来もっと増えてよかった方まで「増やさないこと」を目標にしてしまう、という状況が起きていました。
その結果として近年指摘されてきたのが、日本で生まれる赤ちゃんの出生体重が、長期的に下がってきているという事実です。低出生体重で生まれること自体がただちに問題というわけではありませんが、お母さんの体重増加が少なすぎることとの関連が、複数の調査で議論されるようになりました。
2021年、目安が見直されました
こうした流れを受けて、日本産科婦人科学会は2021年3月に「妊娠中の体重増加指導の目安」を改定しました。妊娠前のBMI(体格指数)ごとに、参考となる増加量が示されています。
- 低体重(BMI 18.5未満):12〜15kg
- 普通体重(BMI 18.5以上25.0未満):10〜13kg
- 肥満1度(BMI 25.0以上30.0未満):7〜10kg
- 肥満2度以上(BMI 30.0以上):個別に対応(上限5kgまでが一つの目安)
注目したいのは、従来の目安では「上限」だった数字が、新しい目安では「下限」に近い位置づけになった点です。つまり、多くの方にとって「ここまでは増えてよい」と考えられる量が、2〜3kgほど上に動いたことになります。
さらに学会は、「体重増加量を厳格に指導する根拠は必ずしも十分ではない」とし、個人差を考慮したゆるやかな指導を心がけるよう求めています。これは、これまで多くのお母さんが感じてきた「もっと食べたいのに我慢しなければ」という緊張を、医学の側からゆるめてくれる、大きな変化です。
BMIは「体重(kg) ÷ 身長(m) ÷ 身長(m)」で計算できます。たとえば身長158cm・体重52kgなら、52 ÷ 1.58 ÷ 1.58 で、おおよそ20.8。普通体重の範囲に入ります。まずは妊娠前の自分がどこに当てはまるかを知ることが、目安と付き合う出発点になります。
あまり増えないのも、気にかけたいこと
体重の話題では「増えすぎ」ばかりが注目されがちですが、あまり増えないことについても、近年は丁寧に語られるようになってきました。
お母さんの栄養状態と赤ちゃんの育ちには関連があると考えられており、極端に体重が増えない状況が続くと、赤ちゃんが小さく生まれやすくなる傾向が、いくつかの研究で報告されています。また、おなかの中の栄養環境が、生まれたあとの子どもの体質に長く影響する可能性があるという考え方(DOHaDと呼ばれます)も、近年さかんに研究されています。
こうした知見は、まだ研究が積み重なっている途中のものも含まれます。ですから「増やさないと大変なことになる」と不安を煽るつもりはありません。お伝えしたいのは、「増やさないこと」を目標にしてしまうと、本来必要だった栄養まで控えてしまうことがある、という点です。妊娠中の体は、赤ちゃんを育て、お産に備えるために、ある程度の蓄えを必要としています。
では、増えすぎは気にしなくていいのか
もちろん、どれだけ増えてもよいということではありません。短期間での急な増加や、目安を大きく超える増え方は、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病といった状態と関連することが知られています。これらは赤ちゃんとお母さんの両方にかかわる大切な問題です。
ただ、ここでも大事なのは「数字そのもの」より「増え方」です。たとえば、むくみで一気に体重が増えたように見えるときもあります。気になる増え方があったときに、自己判断で食事を一気に減らすのではなく、健診で経過を見てもらいながら整えていく——その姿勢が、いちばん体にやさしいと思います。
体重管理で大切にしたい考え方
ここでは、妊娠中の体重管理で大切にしたい考え方を整理します。
妊娠中も、体調が許す範囲で体を動かすことは、基本的に問題ないとされています。「妊娠中はおとなしくしていなければ」と思われがちですが、合併症などがなければ、動ける時期に無理のない範囲で歩く・体を動かすことは、むしろ勧められています。
もちろん、いつも順調とは限りません。つわりがつらい時期は、食べられるものを食べられるだけ、という日が続くこともあります。そうした時期に体重が思うように増えなくても、自分を責める必要はありません。食べられない時期があるのは自然なことで、つわりが落ち着けば、体は少しずつ帳尻を合わせていきます。
食事は、何かを極端に抜くより「いつもの食事を、栄養の偏りが少なくなるように少し整える」ことが現実的です。妊娠中に特別なことをする必要はなく、「ちゃんとしなければ」より「続けられること」を優先するほうが続きます。
体重とうまく付き合うための、小さな工夫
数字に振り回されすぎないために、大切にしたい考え方をいくつかまとめます。
まず、体重は「点」ではなく「線」で見ること。一日単位の上下に一喜一憂するより、数週間の流れとしてゆるやかに上向いているかを見るほうが、体の状態をよく表します。体重計に乗るのは、毎日同じ時間帯・同じ条件にすると、ぶれが小さくなって見やすくなります。
次に、食べる量より中身に目を向けること。同じカロリーでも、たんぱく質や鉄・葉酸などが偏りなくとれているかは、量だけを見ていてはわかりません。「減らす」発想より「整える」発想のほうが、妊娠中の体には合っていると感じます。
そして、体を動かせる時期は、無理のない範囲で動くこと。妊娠経過に問題がない場合、ウォーキングなどの穏やかな運動は多くのガイドラインで支持されています。米国産科婦人科学会(ACOG)も、合併症のない妊娠では適度な運動が勧められるとしています。ただし、運動を始める前には必ずかかりつけの産婦人科で確認してください。出血や張りがあるときなどは別の判断になります。
こんなときは、かかりつけ医に相談を
体重は、本来かかりつけの産婦人科で経過を見てもらいながら付き合っていくものです。次のようなときは、自己判断で食事や運動を大きく変える前に、健診の場で相談してみてください。
- 短期間で急に体重が増えた、または強いむくみが出てきた
- つわりなどで食べられず、体重がなかなか増えない状態が続いている
- 健診で体重について指導があり、どう調整すればよいか迷っている
- 体重を気にするあまり、食べることがつらく感じるようになってきた
最後の項目は、特に大切にしてほしいところです。体重管理が、心の負担になってしまっているなら、それ自体が相談してよいことです。数字のために、お母さん自身の毎日がつらくなってしまっては、本末転倒です。
おわりに
妊娠中の体重は、長いあいだ「増やしすぎてはいけないもの」として語られてきました。けれど医学の見方は、「極端に増やさないことを目標にしなくてよい」「個人差をふまえて、ゆるやかに付き合えばよい」という方向へと、確かに変わってきています。
体重計の数字は、あなたとあなたの赤ちゃんの状態を見るための、たくさんある手がかりの一つにすぎません。その一つの数字に、毎日を支配される必要はありません。目安を知ったうえで、あとはかかりつけの先生と一緒に、自分のペースで付き合っていく——そのくらいの気持ちで十分です。
Dr.つのみ|臨床系専門医が執筆・監修しています。
免責事項:この記事は、妊娠中の体重に関する一般的な情報をお伝えするものであり、個別の診断や治療、医療上の助言に代わるものではありません。体調や妊娠経過には大きな個人差があります。気になる症状や具体的な体重管理については、必ずかかりつけの産婦人科医にご相談ください。記載した目安や研究知見は、今後の研究や指針の更新により変わる可能性があります。

