おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)|任意接種のいま、ムンプス難聴、定期接種化の議論【2026年版】

「おたふくかぜは軽い病気だから、子どものうちにかかって免疫をつけておいた方がいい」という言い方は、いまも家庭や地域のなかで受けつがれています。一方、厚生労働省の審議会に提出された資料では、おたふくかぜの合併症の頻度が数字で整理されており、2026年5月には新しいMMRワクチンが薬事承認されて、定期接種に位置づけるかどうかの検討が続いています。この記事では、おたふくかぜという病気の経過と合併症、ワクチンをめぐる制度の現在地、そして登園・登校の目安を、公的資料にもとづいて整理します。

結論:先にお伝えしたい3点

  1. 多くは1〜2週間で軽快しますが、合併症の頻度は小さくありません。厚生労働省の資料では、無菌性髄膜炎が1〜10%、脳炎が0.02〜0.5%、難聴が0.01〜0.5%、思春期以降の初感染では精巣炎が14〜35%と整理されています。
  2. 日本ではおたふくかぜワクチンは現在も「任意接種」です。日本小児科学会は、1歳以上で1回目、5歳以上7歳未満(小学校入学前の1年間)で2回目という2回接種を推奨しています。
  3. 令和9年度(2027年度)からの定期接種化に向けた検討は進んでいますが、決定した段階ではありません。厚生労働省の資料には「最速で令和9年度から」と書かれ、検討中のワクチンすべてがその年度になるとは限らない旨も明記されています。

おたふくかぜはどのような病気か

おたふくかぜ(流行性耳下腺炎、ムンプス)は、ムンプスウイルスによる感染症です。厚生労働省の審議会資料によると、潜伏期間は16〜18日(幅は12〜25日)で、発熱と耳下腺の腫れ、痛みをもって発症します。腫れは発症後1〜3日でピークになり、その後3〜7日かけて引いていきます。発熱は1〜6日続きます。

感染は唾液などを介した飛沫によって起こります。基本再生産数(1人の患者が感染させる人数)は11〜14とされ、家庭内や施設内で広がりやすい感染症です。国立健康危機管理研究機構(JIHS)の解説では、感染しても症状が出ない不顕性感染が30〜35%程度みられるとされています。厚生労働省の資料では、7歳以下の児からの報告が全体の約70%を占めると整理されています。

なお、耳の下の腫れを繰り返す「反復性耳下腺炎」という別の病気もあります。耳のまわりの症状については、中耳炎のケアと受診の目安もあわせてご覧ください。

合併症を数字で見る

おたふくかぜにはウイルスそのものに作用する薬がなく、対症療法で経過をみます。押さえておきたいのは合併症の側です。厚生労働省の第35回ワクチン評価に関する小委員会資料(2026年7月22日)では、頻度が次のように整理されています。

合併症 頻度
無菌性髄膜炎 1〜10%
脳炎 0.02〜0.5%
難聴 0.01〜0.5%
精巣炎(思春期以降) 14〜35%

このうち難聴については、日本耳鼻咽喉科学会が2015〜2016年に発症した症例の全国調査を行っています。報告された患者は少なくとも359人で、詳細が明らかな335人のうち片耳の難聴が320人(95.5%)、そのうち290人(91%)は高度以上の難聴でした。経過を追えた203人のうち改善が認められたのは11人(5.0%)にとどまっています。発症年齢は、就学前・学童期と、30歳代の子育て世代にピークが認められました。

数字が示しているのは、おたふくかぜにともなう難聴は、いったん起きると聴力が戻りにくいということです。

「かかって免疫をつける」という考え方を、資料に照らして整理する

この考え方は、おたふくかぜが多くの場合1〜2週間で軽快することを前提にしています。医学的な資料と照らし合わせると、次の3点が論点になります。

  • 自然にかかる場合は、合併症の頻度もそのまま引き受けることになります。
  • かからないまま大人になったときの負担があります。思春期以降に初めてかかると精巣炎や卵巣炎の合併頻度が高くなることが、厚生労働省の資料に明記されています。
  • かかったかどうかの判断が難しいことがあります。不顕性感染が30〜35%あり、耳下腺の腫れを起こす別の病気もあるため、「小さいころにかかったはず」という記憶だけでは免疫があるかどうかを確かめることはできません。

かかるか、接種するかという二者択一ではなく、それぞれで何が起こりうるかを比べたうえで、かかりつけ医と相談して決めるという順序が現実的です。

ワクチンの現在地:任意接種・2回接種・有効性と安全性

日本で使えるおたふくかぜワクチンは、2026年5月時点で3種類です。単独(単味)の乾燥弱毒生おたふくかぜワクチン2種類と、同月に薬事承認された新しいMMRワクチン(麻しん・おたふくかぜ・風しんの混合ワクチン)で、いずれも生後12か月以上が接種の対象です。

接種のスケジュールは、日本小児科学会の推奨で、1歳を過ぎたら早期に1回目、5歳以上7歳未満(小学校入学前の1年間、MRワクチンの2期と同じ時期)に2回目という2回接種が示されています。他の予防接種との組み立ては、未就学児の予防接種スケジュールもあわせてご覧ください。

有効性について、厚生労働省の資料では、国内の観察研究で既存の単味ワクチンはいずれも80〜90%程度の有効率が検証されているとまとめられています。WHOのポジションペーパー(2024年3月改訂)でも、2回接種での有効率は中央値88%と整理されています。

安全性については、無菌性髄膜炎が長く議論の中心にありました。1歳以上就学前の小児に接種して8週間追跡できた44,708例の調査では、発生は6例(10万接種あたり13.4例)で、いずれも回復が確認されています。また、18歳未満の約2万人を対象とした前向きコホート研究では、発生頻度は3歳未満(0.018%)の方が3歳以上(0.078%)より有意に低かったと報告されています。1回目を1歳のうちに済ませることには、この観点からの意味もあります。

任意接種のため費用は自己負担が基本ですが、独自に助成を行う自治体もあります。お住まいの市区町村の案内をご確認ください。

定期接種化の議論はどこまで進んでいるか

おたふくかぜワクチンは、1989年から1993年まで当時のMMRワクチンとして使われた後、接種後の無菌性髄膜炎の発生が問題となって見合わせられ、2013年の予防接種基本方針部会では「より高い安全性が期待できるワクチンの承認が前提」とされていました。その新しいMMRワクチンが承認され、2026年7月22日の小委員会では定期接種に位置づける場合のプログラムが議論されています。資料に挙げられた案は次のとおりです。

  • 第1期接種:生後12か月から24か月に至るまでの間にある者
  • 第2期接種:小学校就学の始期に達する日の1年前の日から、当該始期に達する日の前日までにある者
  • キャッチアップ接種:第1期の機会を逃し、かつ一度もおたふくかぜワクチンを接種したことのない、第2期接種前の児

ここで注意しておきたいのが、同じ資料の次の記載です。審議会は最速で令和9年度からの定期接種化について複数のワクチンを同時に検討しており、自治体の事務負担や財政への影響などの観点から、すべての予防接種を令和9年度から定期接種化することが適切ではない可能性が想定される、と明記されています。

確かなのは議論が具体的なプログラムの段階まで進んでいることまでで、開始時期が決まったわけではありません。「もう少し待てば定期接種になるのでは」と接種を先送りする判断は、現時点の資料からは裏づけられません。待つかどうかは、かかりつけ医とご相談ください。任意・定期の区別で迷いやすいテーマとして、子どものインフルエンザ予防接種もあわせてご覧ください。

かかったときの過ごし方と、登園・登校の目安

登校(学校)の基準は、学校保健安全法で定められています。おたふくかぜは第2種の感染症とされ、耳下腺、顎下腺または舌下腺の腫れが発現した後5日を経過し、かつ全身状態が良好になるまで出席停止とされています。ただし、病状により医師が感染のおそれがないと認めたときは、この限りではありません。

登園(保育所)の目安は、こども家庭庁「保育所における感染症対策ガイドライン(2018年改訂版)」の別添4・表8に示されています。

  • 感染しやすい期間:発症3日前から耳下腺の腫れが出た後4日
  • 登園のめやす:耳下腺、顎下腺、舌下腺の腫れが発現してから5日経過し、かつ全身状態が良好になっていること

おたふくかぜは、医師が記入する「意見書」が考えられる感染症に分類されています。ただし同ガイドラインでは、意見書や登園届は一律に必要となるものではなく、各保育所が地域の医療機関と協議して取扱いを決めるとされています。求められる書類は園にご確認ください。

家庭での過ごし方は対症療法が中心です。唾液が出ると痛みが強くなるため、酸味の強いものは負担になります。かむ動作がつらい時期は、やわらかく飲み込みやすいものに寄せ、水分をこまめにとれるようにします。発熱への対応は、赤ちゃんの発熱と受診の目安の考え方も参考になります。

次のような様子があるときは、時間を置かずに受診してください。

  • 強い頭痛が続く、繰り返し吐く、ぐったりしている(無菌性髄膜炎のサインとされる症状です)
  • 呼びかけへの反応が変わった、片方の耳を気にする、聞こえ方が違うように見える
  • 陰嚢の痛みや腫れ、強い腹痛がある
  • 水分がとれず、尿の量が明らかに減っている

まとめ

おたふくかぜは多くの場合1〜2週間で軽快する一方、無菌性髄膜炎が1〜10%、難聴が0.01〜0.5%という頻度で合併症が起こりうることが公的な資料に整理されており、とくに難聴は聴力が戻りにくいことが全国調査で示されています。ワクチンは現在も任意接種で、日本小児科学会は1歳と就学前1年の2回接種を推奨しています。定期接種化の検討は進んでいますが、開始時期が決まったわけではありません。何が起こりうるかを数字で確認したうえで、お子さんの年齢や体調、地域の流行状況をふまえて、かかりつけ医と一緒に決めていくことをおすすめします。

参考にした資料

  • 厚生労働省「第35回ワクチン評価に関する小委員会 資料1-1 おたふくかぜワクチンについて」(2026年7月22日)
  • 国立健康危機管理研究機構(JIHS)「流行性耳下腺炎(詳細版)」
  • 日本耳鼻咽喉科学会「2015〜2016年のムンプス流行時に発症したムンプス難聴症例の全国調査」同学会会報 2018年121巻9号
  • 日本小児科学会「推奨する予防接種スケジュール」
  • こども家庭庁「保育所における感染症対策ガイドライン(2018年改訂版)」別添4 表8
  • WHO「Mumps virus vaccines: WHO Position Paper」(2024年3月)

Dr.つのみ|臨床系専門医が執筆・監修しています。

本記事の情報は一般的なものです。個別の症状や状況については、必ずかかりつけ医にご相談ください。記事の内容により生じた問題について、当サイトは責任を負いかねます。

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