「吐いているあいだは、胃腸を休ませるために何も飲ませないほうがいい」「下痢が止まる薬をもらってくるもの」——赤ちゃんの下痢や嘔吐については、こうした昔ながらの言い方がいまも家庭のなかで受け継がれています。一方で、日本小児救急医学会の小児急性胃腸炎診療ガイドラインや、WHO・UNICEFが示してきた経口補水療法の考え方では、家庭での対応の中心は「絶食」でも「下痢止め」でもなく、少量ずつ水分と電解質を補い、食事を早めに戻していくことだと整理されています。この記事では、赤ちゃんの下痢・嘔吐について、家庭でできることと、受診を考えたいサインを、公的機関と学会の情報にそって順番に整理します。
この記事の結論(先にお伝えします)
- 家庭でのケアの中心は脱水を防ぐことであり、水分をやめることではありません。
- 吐いているときは、少量を何回にも分けて与える方法が一般的にすすめられています。
- 経口補水液は、水・お茶・果汁・スポーツドリンクとは組成が異なります。乳幼児用に調整されたものが想定されています。
- 母乳・育児用ミルクは基本的に続けてよいとされています。長い絶食は現在の標準的な考え方ではありません。
- 生後3か月未満の乳児、ぐったりしている、半日以上おしっこが出ない、血便、緑色の嘔吐などがあるときは、家庭で様子を見ずに受診を検討します。
- 市販の下痢止めを、保護者の判断で乳幼児に使うことは想定されていません。
1. 下痢・嘔吐で本当に気をつけたいのは「回数」ではなく「脱水」
赤ちゃんの下痢や嘔吐が始まると、多くの家庭で最初に気になるのは回数や色です。ただ、医学的に整理すると、家庭での判断の軸になるのは回数そのものではなく、体から出ていく水分と電解質に、入っていく分が追いついているかという点です。
乳児は体重に対する水分の割合が大人より高く、体重あたりの必要な水分量も多いとされています。そのため、同じ回数の嘔吐や下痢でも、体の小さい子ほど水分バランスが崩れやすいという構造があります。日本小児救急医学会の小児急性胃腸炎診療ガイドラインでも、対応は脱水の程度の評価と、その補正を中心に組み立てられています。
家庭で脱水の目安として見やすいのは、次のような点です。
- おしっこの回数と量(半日以上出ていない、色が濃い)
- 口のなかや唇の乾き
- 泣いても涙が出にくい
- 機嫌・反応(あやしても笑わない、うとうとして反応が鈍い)
- 体重の減り方(家庭で測れる場合)
このなかで、家庭でいちばん再現性が高いのはおしっこの記録です。時刻をメモしておくと、受診したときにも伝えやすくなります。
夏は、胃腸炎そのものに加えて発汗による水分の出入りも重なります。暑い時期の水分の考え方は赤ちゃんの水分補給|麦茶・白湯はいつから必要?と赤ちゃん・子どもの熱中症|サインと予防・応急対応でも整理しています。
2. 吐いているときの水分の与え方——「少量を、何度も」
吐いた直後に多めに飲ませると、また吐いてしまい、結果として飲めた量がさらに減る、ということが起こります。そこで一般的にすすめられているのが、一度に与える量を減らし、回数を増やす方法です。
日本小児救急医学会のガイドラインや小児科の一般的な解説では、次のような進め方が示されています。
- 吐いたあとは15〜30分ほど、胃を落ち着かせる時間をとる
- 再開するときは、小さじ1杯程度(約5mL)から始める
- 吐かなければ、5〜10分おきにくり返す
- 数十分〜数時間かけて、少しずつ一回量を増やしていく
スプーン、スポイト、注射器型の経口シリンジなど、少量ずつ与えられる道具があると進めやすくなります。哺乳瓶で一気に飲んでしまう子の場合は、道具を変えるだけで進み方が変わることがあります。
何を飲ませるか
水分であれば何でもよい、というわけではありません。下痢では水と一緒にナトリウムなどの電解質も失われるため、水やお茶だけを大量に与えると、体内の電解質のバランスが崩れる方向に働くことがあります。
WHO・UNICEFが世界的に普及させてきた経口補水塩(ORS)は、水分と電解質、そして吸収を助ける少量の糖を、一定の比率で組み合わせた組成になっています。日本で市販されている経口補水液のうち、乳幼児向けに調整された製品がこれにあたります。
一方、次のものは代わりになりにくいとされています。
| 飲みもの | 位置づけ |
|---|---|
| 経口補水液(乳幼児向け) | 下痢・嘔吐時に想定された組成 |
| 水・麦茶・白湯 | 電解質を含まないため、これだけに頼らない |
| スポーツドリンク | 糖が多く電解質が少ない組成のものが多い |
| 果汁・清涼飲料 | 糖が多く、下痢を長引かせる方向に働くことがある |
| 経口補水液(成人向け) | 乳幼児向けとは組成が異なる |
なお、生後6か月未満の子や、水分がまったく入らない子については、家庭での経口補水にこだわらず、早めに小児科に相談する流れが想定されています。
母乳・ミルクはどうするか
母乳は、下痢や嘔吐のあいだも続けてよいとされています。一回の授乳時間を短くして回数を増やす、という調整が現実的です。
育児用ミルクについても、薄めて与えることが一律にすすめられているわけではありません。濃度を変える場合は、自己判断ではなく小児科の指示にしたがうのが安全です。授乳全般の考え方は母乳・ミルク・混合の考え方でも整理しています。
3. 食事はいつ、どう戻すか
「下痢がおさまるまで食べさせない」という考え方が長く家庭に残っていますが、現在の小児科領域の整理では、脱水が補正されたら早めに通常の食事へ戻す方向が一般的です。長期間の絶食は、回復を早める方向には働かないと複数の研究で示されており、ガイドラインでも支持されていません。
戻し方の目安としては、次のような点が挙げられます。
- 消化のよいものから:おかゆ、うどん、パン、じゃがいも、バナナ、豆腐、白身魚など
- 量は少なめから、いつもの回数に近づけていく
- 脂質の多いもの・糖分の多い飲料は、いったん控える
- 離乳食の段階を、一時的に少し前に戻すのは現実的な調整
離乳食の進め方そのものについては離乳食の始め方を参照してください。
なお、乳糖不耐の状態が一時的に起こることがあり、その場合は小児科から乳糖を減らしたミルクなどが提案されることがあります。これも自己判断ではなく、相談したうえでの選択になります。
4. 受診を考えたいサイン
家庭で様子を見ずに、その日のうちに受診を検討したいとされるのは、おおむね次のような場合です。
- 生後3か月未満の乳児の嘔吐・下痢(月齢が低いほど早めに)
- ぐったりしている、呼びかけへの反応が鈍い、うとうとして起きない
- 半日以上おしっこが出ていない、涙が出ない、唇や口のなかが乾いている
- 水分をまったく受けつけず、飲むたびに吐く状態が続く
- 血便、または黒っぽい便
- 緑色(胆汁のような色)の嘔吐
- 強い腹痛、お腹を抱えて泣くことをくり返す
- けいれん
- 高い熱が続く、または顔色が悪い
このうち、緑色の嘔吐・血便・強い腹痛のくり返しは、感染性の胃腸炎以外の原因(腸重積など)も含めて確認が必要な所見として挙げられています。日本小児科学会が公開している「こどもの救急」でも、これらは家庭で様子を見るのではなく相談する項目として整理されています。
発熱をともなうときの受診の目安は赤ちゃん・子どもの発熱|受診の目安と家庭でのケアにまとめています。
下痢止めについて
市販の下痢止めを乳幼児に使うことは、一般的に想定されていません。感染性の胃腸炎では、腸の動きを止めることで病原体や毒素が体内にとどまる方向に働く可能性が指摘されており、小児科領域では慎重に扱われる薬です。整腸剤なども含め、処方や指示にしたがうのが基本になります。
5. 季節によって背景が変わる
胃腸炎は一年を通じて起こりますが、背景となる原因は季節で傾向が異なると、厚生労働省の感染症に関する情報でも整理されています。
- 秋〜冬:ノロウイルス、ロタウイルス、アデノウイルスなどウイルス性が中心
- 夏:気温と湿度の上昇にともない、カンピロバクター、サルモネラ、腸管出血性大腸菌など細菌性の食中毒の割合が上がる
夏の細菌性については、加熱が不十分な肉や卵、調理器具を介した二次汚染が要因として挙げられています。とくに乳幼児では、非加熱の食品や加熱不十分な肉類は避けるという整理が一般的です。
ロタウイルスについては、ワクチンが定期接種に位置づけられています(2020年10月以降)。接種のスケジュールは月齢の制限があるため、乳幼児の予防接種スケジュールもあわせて確認しておくと整理しやすくなります。
夏に流行する感染症のうち、口のなかの症状で食事が進まなくなるものについては手足口病のケアで別に整理しています。
6. 家庭のなかで広げにくくするために
胃腸炎の原因となるウイルスは、家庭内で広がりやすいことが知られています。厚生労働省のノロウイルスに関するQ&Aなどで示されている基本は、石けんと流水での手洗い(おむつ交換や吐いたものの処理のあと、調理や食事の前)、タオルの共用を避けること、食品の中心部までの加熱です。
注意したいのが消毒剤の使い分けで、ノロウイルスはアルコールが効きにくいとされ、次亜塩素酸ナトリウム(塩素系漂白剤の希釈液)での消毒が案内されています。吐いたものは、使い捨て手袋とマスクを使い、ペーパータオルで外側から内側へ静かに拭き取り、密閉して捨てます。乾燥して舞い上がることで広がる経路も指摘されているため、乾く前に処理することが案内されています。
7. よくある言われ方の整理
| よく言われること | 医学的な整理 |
|---|---|
| 吐いているあいだは何も飲ませない | 少量ずつ再開する方法が一般的にすすめられています |
| 下痢がおさまるまで絶食 | 脱水が補正されたら早めに食事を戻す方向が支持されています |
| 母乳はやめたほうがよい | 続けてよいとされています |
| スポーツドリンクで十分 | 糖と電解質の比率が下痢時の想定と異なります |
| 下痢止めをもらえば早くよくなる | 乳幼児では慎重に扱われ、自己判断での使用は想定されていません |
| 便の回数が減れば回復 | 回数より、水分がとれているか・機嫌や尿量が戻っているかが目安になります |
まとめ
赤ちゃんの下痢・嘔吐で家庭が担う役割は、原因を突きとめることではなく、脱水を進ませないことと、受診したほうがよいサインを見落とさないことの二つに整理できます。
- 少量を何度も、が水分の基本
- 経口補水液は乳幼児向けに調整されたものを
- 母乳・ミルクは続けてよい
- 脱水が補正されたら食事は早めに戻す
- 3か月未満・ぐったり・尿が出ない・血便・緑色の嘔吐は受診を検討
- 下痢止めは自己判断で使わない
おしっこの回数と時刻、吐いた回数、便の様子をメモしておくと、受診の場でそのまま役に立ちます。
Dr.つのみ|臨床系専門医が執筆・監修しています。
ご利用にあたって(免責事項)
この記事は、公的機関・学会が公開している情報をもとにした一般的な情報提供であり、個別の医療相談・診断・治療の代わりになるものではありません。お子さんの状態には個人差があります。判断に迷うとき、また症状が続く・強くなるときは、かかりつけの小児科医、地域の小児救急電話相談(#8000)などにご相談ください。参考にした情報の方向
厚生労働省(感染性胃腸炎・ノロウイルスに関するQ&A、食中毒に関する情報)/日本小児科学会「こどもの救急」/日本小児救急医学会「小児急性胃腸炎診療ガイドライン」/WHO・UNICEF(経口補水塩に関する指針)/こども家庭庁(予防接種に関する情報)
