まずお伝えしたいこと
「子どもの熱中症」について調べはじめると、症状の見分け方、水分の与え方、受診の目安、車内の注意まで情報がとても多く、どれを信じてどこまで気をつければよいのか、かえって迷いやすいテーマです。実際、「うちの子は大丈夫だろうか」「これは受診したほうがよいのか」と不安になる声は少なくありません。
知識としてある程度は整理できていても、いざその場面になると判断に迷う、という声は少なくありません。だからこそ、あらかじめ「家庭で見守れる範囲」と「受診・救急の線引き」を知っておくことに意味があります。
ここでは、こども家庭庁・環境省・日本小児科学会などの公的資料で示されている考え方をもとに、子どもが熱中症になりやすい理由、気づきたいサイン、家庭での備え、応急対応、受診・救急の目安の順に見ていきます。
結論から先にお伝えします
先に、この記事の要点をまとめます。
第一に、子ども(とくに乳幼児)は大人より熱中症になりやすい体の特徴を持っています。これは育て方の問題ではなく、体のつくりによるものです。
第二に、子どもは自分で「暑い」「気持ち悪い」と十分に訴えられないため、汗のかき方・顔色・元気のなさといった「まわりの大人が気づくサイン」を知っておくことが予防の柱になります。
第三に、予防の基本は「こまめな水分・塩分」「通気性のよい服装と帽子」「日陰や室内での休憩」「車内に置き去りにしない」の4つに集約できます。特別な道具はほとんど必要ありません。
第四に、応急対応は「涼しい場所へ移す→体を冷やす→飲めるなら水分」が基本で、呼びかけへの反応がおかしい・水分を自分で飲めない・けいれんがあるといったときは、水分を無理に飲ませず、すぐに医療機関を受診(必要なら救急車)というのが公的資料でも共通した線引きです。
以下、順番に整理していきます。
なぜ子どもは大人より熱中症になりやすいのか
こども家庭庁や国立成育医療研究センターは、子どもが大人より暑さに弱い理由を、大きく3つの体の特徴として説明しています。
ひとつめは、体温調節の機能が未発達だということです。特に汗をかく機能が十分に育っておらず、暑さを感じてから汗をかいて体温を下げるまでに大人より時間がかかります。そのため体に熱がこもりやすくなります。
ふたつめは、周囲の環境の影響を受けやすいことです。子どもは体重のわりに体の表面積が広く、外気温の影響を受けやすいうえ、身長が低いぶん地面からの照り返し(輻射熱)を強く受けます。こども家庭庁の資料では、大人の顔の高さで32℃のとき、子どもの顔の高さでは35℃程度になる、という目安が紹介されています。つまり大人が「少し暑いな」と感じている場所で、子どもはさらに高温の環境にいることになります。ベビーカーや抱っこも、地面に近いぶん同じ注意が必要です。
みっつめは、自分では予防しにくいことです。遊びに夢中になると体の異変に気づきにくく、言葉でも十分に訴えられません。だからこそ、まわりの大人が顔色や汗の量を気にかけることが、そのまま予防になります。
こうした特徴は「頑張りが足りないから」ではなく、子どもの体がまだ発達の途中だからです。責める話ではなく、知っておけば備えられる話だと受け止めていただければと思います。
見逃したくない子どものサイン
こども家庭庁は、子どもの熱中症で気をつけたいサインとして、次のようなものを挙げています。めまいや顔のほてり、手足の筋肉がつる・けいれんする、体のだるさや吐き気・頭痛、汗のかき方がおかしい(ふいてもふいても汗が出る、あるいはまったく汗をかいていない)、体温が高く皮ふが赤く乾いている、呼びかけに反応しない・まっすぐ歩けない、そして自分で水分補給ができない、という状態です。
国立成育医療研究センターは、子どもが症状を言葉にしにくいことをふまえ、より家庭で気づきやすい形でも整理しています。軽度から中等度では「元気がない」「活気がなくなってきている」「熱が出ることがある」、重症では「声をかけても反応しない・応答がおかしい(意識障害)」「けいれん」です。あわせて、しっかり眠れているのにあくびをしていたり、大量に汗をかいていたりするのも、注意したいサインとされています。
大切なのは、こうしたサインを一つひとつ暗記することよりも、「いつもと様子が違う」と感じたら暑さを疑う、という姿勢を持っておくことです。
家庭でできる予防の基本
予防の柱は、こまめな水分・塩分の補給です。国立成育医療研究センターは、「喉が渇いた」と本人が感じたときにはすでにかなりの水分が失われている、と説明しています。喉が渇く前に少しずつ与えるのが基本で、汗をかくと塩分も失われるため、たくさん汗をかいたときや長時間の外遊びでは、塩分も補える経口補水液やスポーツドリンクなどが向いています。なお、まだ離乳食が始まっていない月齢の赤ちゃんは、基本的に母乳やミルクで水分がまかなえるとされており、麦茶などをいつから足すかは、かかりつけ医や乳幼児健診で相談すると安心です。
服装は、通気性のよい涼しいもので、暑さに応じて脱ぎ着できるようにします。外出時は帽子で直射日光を防ぎます。屋外では日陰や室内でこまめに休憩をとり、遊びに夢中な子どもには大人から休憩と水分をうながします。
室内でも油断はできません。エアコンや扇風機を適切に使い、屋外と同じように気を配ります。気温だけでなく湿度が高い日も注意が必要です。行動の目安として、環境省の「暑さ指数(WBGT)」や「熱中症警戒アラート」を活用できます。こども家庭庁は、暑さ指数が28以上になると熱中症の救急搬送が増えるという分析を紹介しています。
そして、短時間であっても車内に子どもだけを残さないことは、繰り返し強調されている点です。夏の車内は短時間で高温になり、乳幼児は自分で移動できません。「寝ているから」「少しの時間だから」という油断が事故につながっています。もし車内に取り残された子どもを見かけたら、すぐに警察と消防に連絡してください。
体を暑さに慣らす「暑熱順化」も予防に役立ちます。個人差はありますが、体が暑さに慣れるには数日から2週間程度かかるとされ、本格的に暑くなる前から、無理のない範囲で体を動かして汗をかく習慣をつくっておくと備えになります。
「熱中症かな?」と思ったときの応急対応
熱中症は急に進むことがあるため、早めに気づいて対応することが大切です。こども家庭庁と国立成育医療研究センターが示す家庭での応急対応は、次の流れです。
まず、風通しのよい日陰やエアコンの効いた室内など、涼しい場所へ移して寝かせます。衣服をゆるめ、冷たいぬれタオルで体をふき、うちわや扇風機で風を送ります。あわせて、太い血管が通っている「わきの下」「首の周り」「太ももの付け根(そけい部)」を冷やすと、体の熱を効率よく逃がせます。保冷剤や氷のう、冷えたペットボトルなどを当てるのも有効です。
意識がはっきりしていて自分で飲めるようであれば、水分をこまめに与えます。汗を多くかいたあとは、塩分も補える経口補水液やスポーツドリンクが向いています。
ここで最も大切な注意点があります。呼びかけへの反応がおかしい、応答がない(意識障害がある)ときは、水分が気道に流れ込むおそれがあるため、無理に口から水分を飲ませてはいけません。すぐに医療機関を受診してください。涼しい場所へ移したあとも急に悪くなることがあるため、そばを離れず様子を見守ります。
受診・救急車を考える目安
家庭で見守れる範囲と、受診・救急が必要な範囲の線引きは、公的資料でおおむね共通しています。
だるさや軽い吐き気の程度であれば、まず涼しい場所で休ませ、経口補水液などを与えてみます。飲めて、少しずつ落ち着いてくるようなら、様子を見ながら経過を観察します。飲めない・症状が改善しないときは、医療機関を受診してください。
一方で、次のようなときは、ためらわず受診、または救急車を呼ぶ目安とされています。声をかけても反応しない・応答がおかしいなどの意識障害があるとき、全身のけいれんがあるとき、ぐったりして自分で水分をとれないときです。国立成育医療研究センターは、判断に迷う場合の目安のひとつとして「ペットボトルのフタを自分で開けられるかどうか」も挙げています。自分で開けられないほど力が入らないときは、すぐに搬送を考えます。
なお、生後まもない低月齢の赤ちゃんは、体調の変化が急なことがあります。ぐったりしている、発熱がある、母乳やミルクの飲みが極端に悪いといったときは、月齢が低いほど早めにかかりつけの小児科へ相談してください。夜間や休日で判断に迷うときは、小児救急電話相談(#8000)や、お住まいの地域の救急案内も活用できます。
よく耳にする言葉を、公的資料と照らす
最後に、子育ての場面で耳にしやすい言葉を、公的資料の内容と照らして確かめておきます。
「日陰にいれば大丈夫」とは限りません。子どもは地面からの照り返しを受けやすく、日陰でも湿度が高ければリスクは残ります。「短時間なら車内に残しても平気」も避けたい考え方です。夏の車内はごく短時間で高温になります。「のどが渇いたと言ってから飲ませればよい」も、実際には渇きを感じた時点で水分はかなり失われています。喉が渇く前の、少しずつの補給が基本です。
いずれも気配りの多い少ないの問題ではなく、体のつくりと環境条件によるものです。子どもの体の特徴を知り、環境を整えておくことが、リスクを下げる基本になります。
まとめ
子どもは体のつくりの上で大人より熱中症になりやすく、自分では気づきにくい存在です。だからこそ、まわりの大人が「いつもと違う」に気づけるようサインを知っておくこと、こまめな水分・塩分、服装、日陰・室内での休憩、車内に残さないという基本を押さえておくことが、そのまま予防になります。応急対応は「涼しい場所へ・体を冷やす・飲めるなら水分」。反応がおかしい・飲めない・けいれんがあるときは、水分を無理に与えず、すぐに受診・救急というのが共通の線引きです。備えておけば、夏はきちんと楽しめます。
Dr.つのみ|臨床系専門医が執筆・監修しています。
免責事項
この記事は、公的機関の資料や一般的な医学情報をもとに、家庭での理解を助けることを目的として整理したものです。医療的な診断や治療、個別の受診判断の代わりになるものではありません。お子さんの症状には個人差があり、月齢や持病によって対応が変わることもあります。気になる症状があるときや判断に迷うときは、自己判断で様子を見続けず、かかりつけの小児科や地域の救急相談(#8000など)にご相談ください。意識がはっきりしない・けいれんがあるなど緊急性が高いと感じたときは、ためらわず救急要請をしてください。
参考にした主な情報源
- こども家庭庁「みんなで見守り『こどもの熱中症』を防ぎましょう!」
- 国立成育医療研究センター「熱中症(熱射病)」
- 環境省「熱中症予防情報サイト/熱中症環境保健マニュアル」「暑さ指数(WBGT)」「熱中症警戒アラート」
- 公益社団法人 日本小児科学会「子どもの予防可能な傷害と対策『熱中症』」
- 総務省消防庁「熱中症による救急搬送状況」(こども家庭庁による集計)
