授乳中の薬・市販薬|飲める薬・相談すべき薬の考え方を医師ママが整理【2026年版】

まずお伝えしたいこと

授乳中に薬が必要になったとき、「この薬を飲んだら、授乳はやめたほうがいいのだろうか」と迷う方は少なくありません。市販の風邪薬や痛み止めひとつとっても、薬の説明書には「授乳を避けること」と書かれていたり、ネットで調べると意見がさまざまで、かえって不安になることがあります。

調べるほど情報量が多く、何を信じてよいか分かりにくいテーマです。授乳を続けながら薬を使ってよいのか、判断の材料がそろわないまま迷ってしまう、という相談は少なくありません。

ここでは、「薬を飲むなら授乳をあきらめなければいけない」「市販薬はとにかく危ない」という言われ方がどこまで当てはまるのかを、公的機関が示している情報をもとに順番に見ていきます。母乳への薬の移りかた、添付文書の「授乳を避ける」の読み方、相談したほうがよい目安の順に整理します。

結論先出し

要点を先にまとめます。

  • 多くの薬は母乳に移行しますが、その量はごくわずかで、赤ちゃんに影響が出る可能性は低いと考えられています(国立成育医療研究センター 妊娠と薬情報センター)。
  • 「授乳中の使用に適さない」と明確に判断される薬は、ごく限られた一部です。日常的に使う多くの薬は、相談のうえで授乳を続けながら使えると考えられています。
  • 薬の説明書(添付文書)に「授乳を避ける」と書かれていても、それが科学的な裏づけに基づくとは限りません。
  • いちばん避けたいのは、自己判断で薬をやめてお母さんの体調が悪くなることです。迷ったら、主治医・薬剤師、または専門の相談窓口に相談してください。

それぞれを、もう少しくわしく見ていきます。

なぜ「薬を飲んだら授乳をやめる」とは限らないのか

母乳は、お母さんの血液からつくられます。お母さんが飲んだ薬は母乳のなかにも分泌されますが、多くの薬では、母乳に含まれる量はとても少ないことが分かっています。さらに、その母乳を赤ちゃんが飲んでも、赤ちゃんの体に吸収されて血液に届くまでに量はどんどん少なくなります。このため、赤ちゃん自身に薬の影響が出る可能性は低いと、国立成育医療研究センターは説明しています。

赤ちゃんの月齢が上がって離乳食が進んだり、ミルクとの混合栄養で母乳を飲む量が減ったりすると、薬の影響はさらに小さくなると考えられています。

同センターは、「薬を飲んでいるお母さんが、母乳をあげることを必ずしもあきらめなければいけないわけではない」「母乳をあげるために、必ずしも薬をやめる必要はない」とはっきり述べています。大切なのは、薬についての正しい情報をもとに、主治医と相談しながら決めていくことです。

なお母乳には、栄養面だけでなく、感染症を防いだり、免疫の働きや神経の発達を助けたりするなど、赤ちゃんにとってさまざまな利点があることが知られています。お母さん側にも、授乳が子宮の収縮を促すことや、乳がん・卵巣がんの発症リスクの低下、糖尿病などの予防につながる可能性が報告されています。薬のことだけでなく、こうした母乳の利点もあわせて、続けるか・一時的に休むかを考えていくとよいでしょう。

「適さない薬」はごく限られている

「授乳中はあらゆる薬に気をつけなければ」と身構えてしまいがちですが、国立成育医療研究センターが「授乳中の使用に適さないと考えられる薬」として挙げているのは、ごく一部です。具体的には、一部の抗不整脈薬(アミオダロン)、麻薬であるコカイン、検査や治療に使う放射性ヨウ素などで、いずれも日常的に使う一般的な薬ではありません。

裏を返せば、市販の解熱鎮痛薬や、よく処方される多くの薬は、相談のうえで授乳を続けながら使えると考えられているということです。同センターは、これまでの授乳に関する電話相談(2012年から2022年3月までで7,398件)の解析や、国内外の研究・専門資料をもとに、「授乳中に安全に使用できると考えられる薬」の一覧を50音順・薬効順で公開しています。たとえば、発熱や痛みに使われるアセトアミノフェンなど、家庭でなじみのある成分も多く含まれています。

ただし注意したいのは、「適さない薬」の表に載っていない薬が、すべて安全というわけではない点です。一覧はあくまで参考であり、自分の薬がどう考えられているかは、主治医や薬剤師に確認するのがいちばん確実です。

市販の風邪薬・痛み止めはどう考える

授乳中によくある場面が、風邪をひいた、頭が痛い、歯が痛い、といったときの市販薬です。

市販薬は、複数の成分が組み合わさっている総合感冒薬(いわゆる風邪薬)も多く、成分によって母乳への移行のしやすさや考え方が異なります。発熱や痛みに対して使われる成分のなかには、授乳中も比較的使いやすいと考えられているものもありますが、市販薬は成分の種類や量がさまざまです。購入や使用の前に、薬剤師に「授乳中であること」を伝えて相談すると安心です。

また、同じ症状でも、原因や体調によって向いている対応は変わります。市販薬で様子を見てよい範囲なのか、受診したほうがよいのかの線引きも含めて、専門家に相談することをおすすめします。

添付文書に「授乳を避ける」と書いてあるとき

「医師や薬剤師には授乳中も使えると言われたのに、薬局でもらった説明書や、ネットで見た添付文書には『授乳を避けること』と書いてあって不安になった」——これは、とてもよくある出来事です。

添付文書は、薬を使ううえで知っておくべき大切な情報が書かれた文書ですが、「授乳婦」の項目に「授乳を中止」と記載されていても、その記載に十分な科学的裏づけがあるとは限らないことが分かっています。実際、2019年からは添付文書の「授乳婦」に関する記載の考え方が見直され、多くの薬で「治療上の有益性および母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続または中止を検討すること」という表現に変わっています。これは、授乳中であっても、治療の必要に応じて薬を適切に使うことを検討してください、という意味を含んでいます。

ですから、説明書に「授乳を避ける」と書いてあるからといって、すぐに授乳をやめると判断する必要はありません。その薬と症状について、主治医や薬剤師に確認してみてください。

自己判断でやめない・我慢しすぎないこと

このテーマでいちばんお伝えしたいのは、薬を「飲む・飲まない」を自分だけで抱え込まないことです。

赤ちゃんへの影響を心配するあまり、必要な薬を我慢してしまうと、お母さんの病気が悪くなり、かえって育児そのものが難しくなることがあります。一方で、病気の種類や程度によっては、数時間おきに授乳を続けること自体が負担になる場合もあります。どちらを大切にすべきかは、お母さんの体調や赤ちゃんの状況によって変わります。

国立成育医療研究センターは、一人ひとりが医師や薬剤師と十分に相談して、授乳をどうするかを個別に決めていくことが大切だとしています。同センターでは、出産後の方を対象に、電話・オンラインでの授乳とお薬の相談も受け付けています(事前予約制)。かかりつけの医療機関とあわせて、こうした窓口を活用するのも一つの方法です。

受診・相談を考えたい目安

次のようなときは、自己判断にせず、早めに相談することをおすすめします。

  • 持病があり、定期的に薬を飲んでいる方が、授乳を始める・続けるか迷っているとき
  • 市販薬を使ってよいか分からない、または数日使っても症状が良くならないとき
  • 赤ちゃんに、いつもと違う強い眠気・ぐったり・ほ乳量の明らかな低下など、気になる様子があるとき(薬だけが原因とは限りませんが、念のため小児科へ)
  • 説明書の記載と、医師・薬剤師の説明が食い違っていて不安なとき

お母さんの薬や授乳の相談は産科・かかりつけ医や薬剤師へ、赤ちゃん自身の体調が気になるときは小児科へ、と窓口を分けて考えると整理しやすくなります。

まとめ

授乳中の薬は、「飲んだら授乳をやめなければ」と思われがちですが、多くの薬は母乳に移る量がごくわずかで、赤ちゃんへの影響は低いと考えられています。授乳中の使用に適さないと明確に判断される薬はごく一部で、日常的に使う多くの薬は、相談のうえで授乳を続けながら使えると考えられています。

説明書の「授乳を避ける」という記載だけで判断せず、いちばん避けたい「自己判断でやめて体調を崩すこと」「必要な薬を我慢すること」を防ぐためにも、迷ったら主治医・薬剤師や専門の相談窓口へ。情報に振り回されず、お母さんと赤ちゃんの両方を大切にする選び方ができますように。

Dr.つのみ|臨床系専門医が執筆・監修しています。

ご利用にあたって

本記事は、授乳中の薬に関する一般的な情報を、公的機関の情報をもとに整理したものです。個々の薬の使用可否や、診断・治療の判断を代替するものではありません。お薬の使用・中止については、必ず主治医・薬剤師、またはかかりつけの医療機関にご相談ください。記事内容は公開時点の情報に基づいており、最新の情報は各公的機関の発表をご確認ください。

参考:国立成育医療研究センター 妊娠と薬情報センター「授乳と薬について知りたい方へ」「授乳中の使用には適さないと考えられる薬」「授乳中に安全に使用できると考えられる薬」

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