まずお伝えしたいこと
妊娠中の「はちみつ」や「栄養ドリンク」について調べると、情報量が多く、どこまで気をつければいいのか迷いやすいテーマです。「はちみつは赤ちゃんに危ないと聞いたから、妊娠中の自分も食べない方がいいのかな」「疲れたときに栄養ドリンクを飲んでいたけれど、妊娠してからは不安」——そうした声は少なくありません。
あいまいなうわさではなく、公的機関がはっきり示している根拠をもとに整理しておくことが、こころの落ち着きにつながります。
このサイトでは、不安をあおるのではなく、「本当に気をつけるべきこと」と「過度に心配しなくてよいこと」を、1つずつやさしく分けてお伝えしていきます。
結論先出し:このページの要点
- はちみつで気をつけるのは「1歳未満の赤ちゃん」であって、妊婦さん本人ではありません。大人がはちみつを食べても、おなかの赤ちゃんに影響することは知られていません。
- 「乳児ボツリヌス症」は、腸内環境が整っていない1歳未満の赤ちゃん特有のものです。1歳以上の方にとって、はちみつはリスクの高い食品ではないと、厚生労働省も示しています。
- 栄養ドリンク・エナジードリンクで確認したいのは、主に「カフェインの量」「アルコール(溶媒)の有無」「配合されている成分」の3点です。商品によって中身が大きく違うため、ラベルの確認が役立ちます。
- どちらも「妊娠したから一切ダメ」というより、ポイントを知って選べば、過度に身構えなくてよいテーマです。
はちみつ:リスクがあるのは「1歳未満の赤ちゃん」
「乳児ボツリヌス症」とはどういうものか
はちみつが心配されるいちばんの理由は、「乳児ボツリヌス症」という病気です。厚生労働省は、1歳未満の赤ちゃんがはちみつを食べることで、この病気にかかることがあると注意を呼びかけています。便秘が続いたり、ほ乳力が落ちたり、泣き声が変わったり、首のすわりが悪くなったりといったサインが出ることがあるとされています。
原因となるボツリヌス菌は、土の中などに広く存在する細菌です。その芽胞(菌が休眠した状態のもの)が、まれにはちみつに含まれていることがあります。
なぜ「妊婦さん本人」は心配しなくてよいのか
ここがいちばん大切なポイントです。厚生労働省は、ボツリヌス菌が口から体内に入っても、大人の腸内では他の腸内細菌との競争に負けてしまうため、通常は何も起こらないとしています。いっぽうで赤ちゃんは、まだ腸内環境が整っていないため、菌が腸の中で増えて毒素を出してしまうことがある、という違いです。
「大人の腸内では、ボツリヌス菌が他の腸内細菌との競争に負けてしまうため、通常、何も起こりません。(中略)なお、1歳以上の方にとっては、ハチミツはリスクの高い食品ではありません。」
(厚生労働省「ハチミツを与えるのは1歳を過ぎてから。」)
妊婦さんも、腸内環境という意味では同じ「大人」です。つまり、はちみつのリスクは1歳未満の赤ちゃんに限られ、妊娠中の方がはちみつを口にしても、おなかの赤ちゃんにボツリヌス菌が届くしくみではありません。菌は腸の中の話であって、血液に入って胎盤を通っていくわけではない、と理解しておくと安心です。
授乳中も、母乳を介して赤ちゃんにうつることはない
「授乳中にはちみつを食べたら、母乳から赤ちゃんにうつるのでは」と心配される方もいます。これも、菌が腸から血液に入って母乳に混ざるという経路ではないため、母乳を通じて赤ちゃんにうつることは知られていません。気をつけるのは、あくまで「赤ちゃんが直接はちみつを口にしないこと」です。1歳になるまでは、はちみつそのものはもちろん、はちみつ入りの飲みものやお菓子も与えないようにします。
加熱すれば大丈夫、ではない理由
「加熱すれば菌は死ぬのでは」と思われがちですが、ボツリヌス菌の芽胞は熱に強く、通常の加熱や調理では死なないとされています。そのため、1歳未満の赤ちゃんには、加熱したものであっても、はちみつを使った食品は避けるのが原則です。これは赤ちゃんに与える場合の話で、妊婦さん本人が食べる分には、このしくみを気にする必要はありません。
妊婦さんがはちみつを食べるときの、ささやかな注意
妊娠中の方にとってのはちみつは、「危険な食品」ではなく「ふつうの甘味料の1つ」です。のどがいがらっぽいときに少しなめて気分を落ち着けたい、という使い方をする方もいます。ただし、はちみつは糖分が高めなので、体重管理や血糖の観点からは、砂糖と同じように「とりすぎない」という意識は持っておくとよいでしょう。妊娠中の体重については、妊娠中の食事で本当に気をつけたいこともあわせてご覧ください。
栄養ドリンク・エナジードリンク:確認したいのは「中身」
「栄養ドリンク」「エナジードリンク」とひとくくりにされがちですが、実際には商品によって中身がかなり違います。妊娠中に気にしておきたいのは、主に次の3つです。
1. カフェインの量
エナジードリンクや栄養ドリンクの中には、カフェインを多く含むものがあります。内閣府食品安全委員会も、妊娠中はいつも以上にカフェインのとりすぎに注意するよう呼びかけています。コーヒーや紅茶、緑茶、チョコレートなど、ほかの食品からもカフェインはとっているため、ドリンク1本だけでなく「1日のトータル量」で考えることが大切です。
妊娠中のカフェインの目安や、コーヒー・お茶の換算については、妊娠中のカフェインの記事でくわしく整理しています。栄養ドリンクを飲むときは、ラベルのカフェイン表示を確認し、その日ほかに飲んだ分とあわせて見積もる習慣をつけると安心です。
2. アルコール(溶媒)が入っていないか
栄養ドリンクの中には、生薬などの成分を抽出・保存するために、ごく微量のアルコール(エタノール)を含む製品があります。こうした微量のものは、お酒を飲むのとは性質が異なりますが、妊娠中の飲酒には「ここまでなら安全」という量が示されていないのが公的な見解です。気になる場合は、ラベルに「アルコール」「エタノール」の記載がないか確認し、アルコール分0.00%と明記されたものを選ぶと、よりこころが落ち着きます。妊娠中のお酒の考え方は、妊娠中に食べてよいもの・気をつけたいもの一覧からも確認できます。
3. 「指定医薬部外品」かどうかと、配合成分
栄養ドリンクには、清涼飲料水として売られているものと、「指定医薬部外品」として売られているものがあります。後者には生薬やビタミン類などが配合されており、製品によっては「妊娠・授乳中の方は医師や薬剤師に相談してください」という趣旨の表示があるものもあります。こうした表示を見つけたときは、自己判断せず、かかりつけの医師や薬剤師にたずねるのがいちばん確実です。
妊娠中の疲れやだるさは、ドリンクで一時的にしのぐより、睡眠やこころの休養で立て直したいところです。疲れがなかなか抜けないと感じるときは、その背景に貧血などが隠れていることもあります。気になる症状が続くときは、健診のときに相談してみてください。
「食べてしまった」「飲んでしまった」と気づいたとき
「妊娠に気づく前に栄養ドリンクを飲んでいた」「はちみつ入りのお菓子を食べてしまった」と、後になって不安になる方もいます。けれど、はちみつは大人が食べる分には心配のいらない食品ですし、栄養ドリンクも、たまたま1本飲んだことで何かが決まってしまうものではありません。大切なのは、これからの選び方です。過ぎたことを責めるより、今日からラベルを確認していく、というやさしい切り替えで十分です。
そのうえで、強い腹痛や出血、激しい体調の変化など、気になる症状があるときは、自己判断で様子を見すぎず、産婦人科に相談してください。
かかりつけ医・産婦人科に相談したいケース
- 持病があり、栄養ドリンクや健康飲料に含まれる成分が影響しないか確認したいとき
- 「指定医薬部外品」の栄養ドリンクを習慣的に飲みたいと考えているとき
- 疲れやだるさ、立ちくらみが続き、日常生活に支障が出ているとき
- はちみつ入りの食品を、誤って1歳未満の赤ちゃんに与えてしまった可能性があるとき(この場合は小児科・小児救急の領域です)
おわりに
はちみつも栄養ドリンクも、「妊娠したからすべて手放さなければいけないもの」ではありません。はちみつで気をつけるのは赤ちゃんが直接口にする場面であり、栄養ドリンクは中身を確認して選べばよい——そう整理できると、ずいぶん気持ちが軽くなるのではないでしょうか。情報に振り回されて、あれもこれもと我慢を増やすのではなく、根拠のある「本当に大事なところ」だけを押さえる。それが、長い妊娠期間をおだやかに過ごすコツだと思います。
Dr.つのみ|臨床系専門医が執筆・監修しています。
ご利用にあたって(免責事項)
この記事は、公的機関の情報をもとにした一般的な情報提供であり、個別の診断や医療上の助言に代わるものではありません。体調やもち越しの持病、服用中の薬などによって、適切な対応は一人ひとり異なります。気になる症状や判断に迷うことがあるときは、自己判断せず、かかりつけの医師・産婦人科・薬剤師にご相談ください。掲載内容は公開時点の情報にもとづいています。
