まずお伝えしたいこと
妊娠中のお酒について調べると、「少量なら問題ない」「いや、一滴もだめ」「ノンアルコールなら大丈夫」など、いろいろな声が見つかって、どれを信じればよいか迷いやすいテーマです。さらに、妊娠に気づく前にお酒を飲んでいたという方も多く、「あのとき飲んでしまった」と気持ちが落ち着かないという声も少なくありません。
このサイトでは、公的機関が示している情報を軸に、妊娠中のアルコールについて「いま分かっていること」と「気づかずに飲んでいた場合の考え方」を、できるだけやさしく整理していきます。読んだあとに、必要以上に自分を責めず、落ち着いて次の一歩を選べることを目指しています。
結論から
先に大切なところをお伝えします。
- 妊娠中は、お酒を飲まないでおくのが基本とされています。厚生労働省の指針では、飲む量・飲む時期・お酒の種類による「ここまでなら安全」という線引きは示されていません。
- これは、おどすための言葉ではなく、「安全とされる量がはっきりしていないので、控えておくのが安心」という意味合いです。
- 妊娠に気づく前に飲んでいた場合も、過度に心配しすぎず、気になることはかかりつけの産科で相談するのがよいとされています。一度の飲酒が必ず何かを起こすという話ではありません。
- ノンアルコール飲料は、表示を確認して「アルコール分0.00%」のものを選ぶと安心です。日本では度数1%未満でも「ノンアルコール」と表記できるため、ごく少量のアルコールを含むものもあります。
妊娠中の食べもの・飲みもの全体の考え方は、妊娠中に食べてはいけないもの・大丈夫なもの一覧でも整理しています。あわせてご覧ください。
なぜ「安全とされる量はない」と言われるのか
妊娠中にお母さんが飲んだお酒のアルコールは、血液を通じて胎盤に運ばれ、おなかの赤ちゃんにも届くと考えられています。赤ちゃんはアルコールを分解する力がまだ十分に育っていないため、お母さんよりも影響を受けやすいとされています。
妊娠中の飲酒によって赤ちゃんに起こりうる影響は、まとめて胎児性アルコール・スペクトラム障害(FAS/FASD)と呼ばれています。厚生労働省のe-ヘルスネットでは、生まれつきの低体重、顔だちを中心とした形の特徴、脳の育ちへの影響などが起こる可能性があると説明されています。
ここで知っておきたいのは、こうした影響は、いったん生じると後から元に戻す方法が確立されていないという点です。だからこそ、「治してから考える」のではなく、妊娠中はお酒を控えておくことが、いま示されている最も確かな考え方とされています。
アルコールは、おなかの赤ちゃんに届く。赤ちゃんはまだ分解する力が弱い。だから、量の多い少ないにかかわらず控えておく——これが公的機関の示している基本的な整理です。
「少量なら」「時期によっては大丈夫」は本当か
よく聞かれるのが、「グラス一杯くらいなら」「安定期に入れば」という考え方です。
厚生労働省の「妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針」では、飲む量・飲む時期・お酒の種類による安全域はないと考えられており、妊娠中の女性はお酒をやめるようにすすめられています。つまり、「少量なら安全」「この時期なら安全」とはっきり言える根拠は、いまのところ示されていないということです。
研究の世界でも、「ごく少量の飲酒で必ず影響が出る」と断定されているわけではありません。けれども、「ここまでなら確実に安全」という量も見つかっていません。分からない部分が残っているからこそ、控えておくほうが安心という考え方が、国内外の多くの指針で共通しています。
これは、あなたを責めるための基準ではなく、迷ったときに「控えておけば、その点では心配しなくてよい」という、こころの負担を減らすための線引きでもあります。
妊娠に気づく前に飲んでいた場合
「妊娠が分かる前に、いつも通りお酒を飲んでいた」——これは、とても多くの方が経験することです。生理の予定日前後はまだ妊娠に気づきにくく、その時期に飲酒していたとしても、決して珍しいことではありません。
大切なのは、ここからの考え方です。
- 過ぎたことを強く責めても、こころの負担が増えるだけです。気づいた時点でお酒をやめれば、それがいちばん前向きな一歩になります。
- 一度や数回の飲酒が、必ず赤ちゃんに何かを起こすと決まっているわけではありません。心配の大きさと、実際のリスクは、必ずしも一致しません。
- それでも気になる気持ちが続くときは、ひとりで抱え込まず、かかりつけの産科で率直に伝えて相談してください。妊婦健診は、こうした不安を相談する場でもあります。
「もっと早く知っていれば」と感じる方もいますが、知った今から選び直せることのほうが、ずっと大切です。
ノンアルコール飲料は飲んでいい?
お酒の雰囲気だけでも楽しみたいというとき、ノンアルコール飲料は選択肢の一つになります。ただ、選び方に少しだけ注意点があります。
日本の表示のルールでは、アルコール度数が1%未満であれば「ノンアルコール」と表記できるため、商品によってはごく少量のアルコールを含むものがあります。妊娠中に選ぶなら、ラベルの表示を確認して、「アルコール分0.00%」と書かれているものを選ぶとより安心です。
最近は0.00%の商品も増えていて、ビール風味、サワー風味、ワイン風味など種類も豊富です。「飲めないこと」そのものより、「みんなと同じように何かを手に持てる」ことで気持ちが軽くなる場面もあります。無理のない範囲で、こうした選択肢を上手に使ってみてください。
なお、0.00%の飲料であっても糖分やカフェインを含むものがあります。カフェインの量の目安については妊娠中のカフェインの記事もあわせてご確認ください。
お付き合いの席や、まわりとの関係で困ったら
妊娠初期は、まだ周囲に妊娠を伝えていないことも多く、飲み会や会食でお酒をすすめられて困る、という声をよく聞きます。
- 「今日は体調を整えたいので」「車だから」「最近お酒を控えていて」など、理由を細かく説明しなくても断ってかまいません。
- ノンアルコール飲料やソフトドリンクを最初から手に持っておくと、すすめられにくくなります。
- パートナーや信頼できる人にだけ先に伝えておくと、席でさりげなくフォローしてもらえることもあります。
「断ること」に罪悪感を持つ必要はありません。自分と赤ちゃんの時間を大切にする選択は、まわりに対して失礼なことではないのです。
授乳中のお酒はどう考える?
出産後の授乳期についても、簡単に触れておきます。
お母さんが飲んだお酒のアルコールは、母乳にも移ると考えられています。授乳中にお酒を飲む場合は、量を控えめにし、飲んだあとは時間をあけてから授乳するなどの配慮がすすめられています。妊娠中ほど厳密ではないものの、こちらも「飲まないか、飲むとしてもごく控えめに」が基本的な考え方とされています。授乳とお酒の付き合い方は、また別の記事で詳しく整理します。
かかりつけ医・産科に相談したいとき
次のような場合は、自己判断で抱え込まず、かかりつけの産科や助産師に相談してください。
- 妊娠に気づく前の飲酒について、不安な気持ちが続いている
- お酒を控えたいのに、なかなかやめられないと感じている
- 妊娠中の飲酒について、家族やパートナーと考え方が合わず困っている
お酒を「やめたいのにやめられない」と感じる場合は、こころと体の両面からのサポートが役立つことがあります。それは意志の弱さではなく、相談してよいことがらです。産科や、必要に応じて専門の窓口につないでもらえます。
よくある質問
Q. 妊娠が分かる前に何度かお酒を飲んでいました。大丈夫でしょうか。
A. 妊娠初期はまだ気づきにくく、その時期の飲酒は多くの方が経験することです。一度や数回の飲酒が必ず影響を残すと決まっているわけではありません。気になる場合は、健診のときにかかりつけの産科で率直に相談してみてください。
Q. 料理に使うお酒(みりん・料理酒)はだめですか。
A. 加熱調理でアルコールの多くは飛ぶとされており、調味料として使う程度であれば過度に心配しなくてよいと考えられています。気になる場合は、しっかり加熱する、煮きってから使うなどの工夫があります。
Q. ノンアルコールビールなら毎日飲んでもいいですか。
A. 「アルコール分0.00%」のものを選べば、アルコールの面では心配は少ないとされています。ただし、糖分やカフェインを含む商品もあるため、量や種類は表示を見て無理のない範囲にしておくと安心です。
Q. 少しだけ口をつけてしまいました。今からできることはありますか。
A. いちばん前向きなのは、気づいた時点からお酒を控えることです。過ぎたことを強く責めるより、これからの選択に目を向けてみてください。不安が続くときは相談を。
おわりに
妊娠中のアルコールについて、公的機関が示している考え方はとてもシンプルです。「安全とされる量ははっきりしていないので、妊娠中はお酒を控えておく」。そして、「気づかずに飲んでいたとしても、過度に自分を責めず、気になることは相談する」。
すべてをきっちりやろうとして気持ちをすり減らすより、知ったところから落ち着いて選び直していくことのほうが、ずっと自分にやさしい向き合い方です。お酒との距離は、体調や気分、その日の場面によっても変わるものです。「今日は控えられた」を一つずつ積み重ねていけば、それで十分です。
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Dr.つのみ|臨床系専門医が執筆・監修しています。
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