「妊娠中はワクチンを打ってはいけない」と、家族や昔からの言い伝えで耳にすることがあります。実際には、公的機関や学会は、妊娠中でも受けられる(むしろ勧められる)ワクチンと、妊娠中は避けるワクチンを分けて整理しています。この記事では、妊娠中に受けてよいワクチン・避けるワクチンと、妊娠前後の考え方を、公的機関の見解に沿って整理します。
結論からお伝えします
- 妊娠中でも、インフルエンザ(不活化のHAワクチン)と新型コロナ(SARS-CoV-2)のワクチンは受けられ、むしろ接種が勧められる、または考慮されるワクチンとして整理されています。
- 一方で、風疹・麻疹(MRワクチン)、水痘(みずぼうそう)、おたふくかぜなどの「生ワクチン」は、妊娠中は避け、妊娠前または産後に受けるのが基本です。
- 万一、妊娠に気づかず生ワクチンを受けてしまっても、それだけを理由に妊娠を諦める必要はない、と産婦人科診療ガイドラインでは整理されています。
- 赤ちゃん自身がまだワクチンを受けられない時期は、家族など周囲の人が受けて守るという考え方(コクーン)があります。2025年は百日咳が過去にない規模で報告されており、この考え方が改めて注目されています。
- 何を・いつ受けるかは、体調や妊娠の経過によっても変わります。最終的にはかかりつけの産婦人科医と相談して決めるのが安全です。
「妊娠中はワクチンは全部だめ」は正確ではありません
妊娠中のワクチンについては、「打ってはいけない」というイメージだけが先に広がりがちです。けれども、ワクチンは大きく「不活化ワクチン」と「生ワクチン」に分けられ、妊娠中の扱いも分かれます。
ざっくり整理すると、次のようになります。
- 不活化ワクチン:病原体を感染力のない形にしたもの。妊娠中でも接種できるものが多く、インフルエンザや新型コロナのように、むしろ接種が勧められるものもあります。
- 生ワクチン:弱めた病原体を使うもの。理論上の懸念から、妊娠中は原則として避け、妊娠前か産後に受けます。
つまり、「妊娠中はすべてのワクチンがだめ」というわけではなく、種類ごとに考えるのが実際の整理のしかたです。
妊娠中に受けられる・勧められるワクチン
日本小児科学会がまとめている「妊婦への接種が推奨または考慮されるワクチン」(2025年10月時点)では、妊婦に推奨または考慮されるワクチンとして、インフルエンザHAワクチンとSARS-CoV-2(新型コロナ)ワクチンが挙げられています。
インフルエンザ(不活化HAワクチン)
妊娠中にかかるインフルエンザは重症化しやすいと報告されており、不活化のHAワクチンは妊娠中のどの時期でも希望する方に接種が勧められています。接種で得られた抗体の一部が赤ちゃんに移り、生後まもない時期の赤ちゃんを守ることにつながると報告されています。
なお、鼻にスプレーするタイプの経鼻の弱毒生インフルエンザワクチンは、妊婦への安全性が確立されておらず、妊娠中は勧められていません。「インフルエンザのワクチン」と言っても、注射の不活化ワクチンと経鼻の生ワクチンは別物なので、この点は分けて考えます。接種時期の目安は、流行が本格化する前の秋(10〜11月ごろ)が一般的です。妊娠中のインフルエンザ予防接種のより詳しい考え方は、妊娠中のインフルエンザ予防接種|受けてよい?時期はいつでも整理しています。
新型コロナ(SARS-CoV-2)ワクチン
新型コロナのワクチンも、妊娠中に推奨または考慮されるワクチンとして整理されています。妊娠中の感染は重症化のリスクがあると報告されており、接種の可否や時期については、その時点での流行状況や自身の体調をふまえ、主治医と相談して判断します。
妊娠中は避けるワクチン(生ワクチン)
妊娠中は原則として避けるのが、生ワクチンです。代表的なものに次があります。
- 風疹・麻疹(MRワクチン、または単独の風疹・麻疹ワクチン)
- 水痘(みずぼうそう)
- おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)
これらは妊娠中には受けられないため、妊娠を考える前、または産後に受けるのが基本の流れになります。特に風疹は、妊娠初期にかかると赤ちゃんに影響が及ぶことがある感染症として知られており、妊娠前に抗体の有無を確認し、必要なら接種しておくことが勧められています。
接種のあとに妊娠を避ける期間
生ワクチンを妊娠前に受けた場合、接種のあと一定期間は妊娠を避けるよう案内されます。風疹・麻疹・MR・水痘のワクチンでは接種後およそ2か月間、その他の生ワクチンでは接種後およそ1か月間、妊娠を避けるのが目安とされています。妊活中の方は、このスケジュールも見込んで計画を立てると安心です。
妊娠に気づかず受けてしまったとき
「妊娠に気づかないまま風疹などの生ワクチンを受けてしまった」というケースは、ときどき起こります。この点について、産婦人科診療ガイドライン(2020年度版)では、生ワクチン接種後4週間以内に妊娠した場合でも、臨床的に意味のある赤ちゃんへのリスクの上昇はなく、妊娠を中断する理由にはならないと整理されています。
実際に、ワクチン接種が原因で先天性の異常が起きたという報告は確認されていない、とされています。もし心当たりがある場合は、自己判断で思いつめる前に、かかりつけの産婦人科医に相談してください。
百日咳のワクチンをどう考えるか
2025年は、百日咳が日本国内で過去にない規模で報告された年でした。患者の多くは10歳未満の子どもで、特に生後6か月未満の赤ちゃんは重症化しやすいとされています。感染経路としては家族内での感染が大きな割合を占めることも報告されており、赤ちゃんをどう守るかが改めて課題になっています。
赤ちゃん自身は、生後2か月から定期接種として受けられる混合ワクチン(百日咳を含む)で守っていくのが基本です。赤ちゃん・子どもの接種の進め方は、未就学児の予防接種スケジュールにまとめています。ただし、生まれてすぐの時期はまだ接種が始まっていないため、この「すき間」の時期をどうするかが論点になります。
海外では、妊娠後期に百日咳を含むワクチンを接種し、抗体を赤ちゃんに移すという方法がとられています。日本でも、妊娠後期(およそ28〜36週)の接種で抗体が赤ちゃんに移ること自体は確認されていますが、それによって乳児の重症化を防ぐ効果があるかどうかは、まだ十分に証明されていない段階だと整理されています。妊娠中の百日咳ワクチンについては、日本産科婦人科学会などが情報を出しているため、接種を検討する場合は主治医と相談のうえで判断してください。
赤ちゃんを守る「まわりの人の接種」という考え方
生まれたばかりの赤ちゃんは、まだ多くのワクチンを受けられません。そこで、赤ちゃんに接する家族や同居者が先にワクチンを受けておき、赤ちゃんに感染を持ち込まないようにするという考え方があります。赤ちゃんを取り囲む人がまゆ(コクーン)のように守る、という意味で「コクーン」と呼ばれることがあります。
たとえばインフルエンザであれば、赤ちゃんの周りの大人が流行前に接種しておくことは、赤ちゃんを守る現実的な方法の一つです。子どものインフルエンザワクチンの回数や時期は、子どものインフルエンザワクチン|いつから・何回打つで整理しています。百日咳のように家族内感染が多い感染症でも、この「まわりの人が受ける」という発想が役立ちます。パパやきょうだい、同居の祖父母なども含めて、家族ぐるみで考えると無理がありません。
受ける前に確認しておきたいこと
妊娠中・妊娠前のワクチンを考えるとき、次の点を整理しておくと相談がスムーズです。
- 妊娠しているか、妊娠の可能性があるか(生ワクチンの可否に関わります)
- これまでに受けたワクチンの記録(母子健康手帳や接種済証を確認)
- 風疹・麻疹・水痘などの抗体があるか(過去の検査結果があれば持参)
- アレルギーや持病、飲んでいる薬
- 今の体調・妊娠の経過
これらをふまえて、何を・いつ受けるかを主治医と一緒に決めていきます。とくに生ワクチンと妊娠のタイミングは、自己判断でずらすとかえって計画が崩れることがあるため、早めに相談しておくのがおすすめです。
よくある質問
Q. 妊娠中にインフルエンザの予防接種を受けても大丈夫ですか?
A. 注射の不活化HAワクチンは、妊娠中のどの時期でも希望する方に接種が勧められています。鼻にスプレーする経鼻の生ワクチンは妊娠中は勧められていないため、種類を確認してください。
Q. 風疹の抗体が低いと言われました。妊娠中に受けられますか?
A. 風疹ワクチンは生ワクチンのため、妊娠中は受けられません。産後に受けるのが一般的です。次の妊娠に向けて、産後の接種を主治医と相談しておくとよいでしょう。
Q. 授乳中でもワクチンは受けられますか?
A. 授乳中は、多くのワクチンで接種が問題になりにくいとされています。ただし個別の状況によるため、受ける前に主治医や薬剤師に確認してください。
Q. 妊娠に気づかず生ワクチンを受けてしまいました。
A. それだけを理由に妊娠を中断する必要はない、とガイドラインでは整理されています。過度に心配せず、できるだけ早めにかかりつけの産婦人科医に相談してください。
まとめ
妊娠中のワクチンは、「全部だめ」でも「全部大丈夫」でもなく、種類ごとに分けて考えるのが実際の整理のしかたです。インフルエンザ(不活化)と新型コロナは妊娠中でも受けられ、むしろ勧められる・考慮されるワクチンとして位置づけられています。風疹・麻疹・水痘などの生ワクチンは妊娠中は避け、妊娠前か産後に受けます。
そして、赤ちゃん自身がまだ受けられない時期は、まわりの家族が受けて守るという考え方も、選択肢に入れておくと安心です。情報が多くて迷いやすいテーマですが、最後は自分の体調と妊娠の経過をよく知る主治医と相談しながら、一つずつ決めていきましょう。
Dr.つのみ|臨床系専門医が執筆・監修しています。
この記事は、公的機関・学会の情報にもとづいて一般的な内容を整理したものであり、個別の診断・治療に代わるものではありません。接種の可否や個別の症状については、かかりつけの医療機関にご相談ください。
