妊娠中の風邪・咳|市販薬は使える?避けたい成分と受診の目安【2026年版】

妊娠中に風邪をひくと、「赤ちゃんに影響するから薬は一切飲めない」「市販の風邪薬でとにかく早く抑えるべき」と、家族や周囲から相反する言われ方をすることがあります。一方で公的機関や学会は、風邪そのものへの対処は妊娠中も基本は変わらず、気をつけるのは「薬の成分と、飲む時期の選び方」だと整理しています(国立成育医療研究センター・日本産科婦人科学会・医薬品医療機器総合機構)。この記事では、妊娠中の風邪や咳について、市販薬をどう考えるか、避けたい成分は何か、そして受診の目安を、根拠にもとづいて整理します。

結論から:3つのポイント

  • 風邪そのものの基本対処は妊娠中も同じ。ふつうの風邪(普通感冒)の多くはウイルスによるもので、安静・水分・栄養で自然に軽くなっていくとされています。特別なことをするより、体を休められる環境を整えることが土台になります。
  • 市販の総合感冒薬は「自己判断で選ばない」が原則。市販薬には複数の成分がまとめて入っていることが多く、成分や妊娠の時期によっては注意が必要なものがあります。妊娠中であることを伝えたうえで、医師や薬剤師に相談してから使うのが安全です。
  • 受診をためらわない方がよい場面がある。高い熱が続く、息が苦しい、水分がとれない、強い倦怠感や関節・筋肉の痛みを伴うといったときは、早めに受診します。インフルエンザは妊娠中に重症化しやすいと報告されており、様子見にしないことが大切だと整理されています。

妊娠中の風邪、まず知っておきたいこと

いわゆる「風邪」の多くは、さまざまなウイルスによって起こる上気道の感染症です。のどの痛み、鼻水、せき、微熱などが数日から一週間ほどで軽くなっていくのが一般的な経過とされています。抗菌薬(いわゆる抗生物質)はウイルスには効かないため、ふつうの風邪では基本的に使いません。

妊娠中だからといって、風邪の治り方そのものが大きく変わるわけではありません。基本になるのは、十分に休むこと、水分をこまめにとること、消化のよいもので栄養を保つことです。発熱時は脱水になりやすいため、水分補給はとくに意識したいポイントとされています。

一方で、妊娠中に気をつけたいのは「高い熱が続く状態」です。とくに妊娠初期の高熱については、できるだけ早く熱を下げる対応が望ましいと考えられており、自己判断で我慢し続けるより、医療機関に相談する方が安全とされています。風邪のウイルスそのものより、高熱や脱水、そしてインフルエンザなどの合併に注意を向ける、という整理が現実的です。

市販の風邪薬(総合感冒薬)をどう考えるか

ドラッグストアで手に入る「総合感冒薬」は、解熱鎮痛成分・せき止め・鼻炎の成分・カフェインなどが一つにまとめられている製品が多くあります。便利な一方で、「今の自分の妊娠週数で、その成分をすべて摂ってよいか」を判断するのが難しいという側面があります。

妊娠と薬にくわしい公的な相談体制でも、市販薬を使う場合は成分を確認し、妊娠中であることを伝えたうえで薬剤師に相談して選ぶことが勧められています。「風邪薬は全部だめ」でも「市販薬なら何でも安心」でもなく、成分と時期を確認してから選ぶのが、もっとも無理のない考え方です。

すでに市販薬を一度飲んでしまった、という場合も、まずは落ち着いて、いつ・何を・どれくらい飲んだかを控えておき、かかりつけの産婦人科や薬剤師に相談してください。多くのケースは相談のうえで経過をみていくことになります。

妊娠中に注意したい成分:解熱鎮痛薬

解熱鎮痛はアセトアミノフェンが第一選択とされる

発熱やのどの痛み、頭痛などに使う解熱鎮痛薬について、妊婦さんの第一選択とされているのはアセトアミノフェンです。妊娠後期にも問題となる胎児の動脈管への影響が認められないことから、必要なときには妊娠中に使われる成分と整理されています。

ただし、これは「自己判断で市販薬を選んでよい」という意味ではありません。市販の解熱鎮痛薬にはアセトアミノフェン以外の成分が含まれる製品もあります。使う量やタイミングも含めて、妊娠中であることを伝えて医師・薬剤師に相談したうえで使うのが安全です。

NSAIDsは妊娠中期以降にとくに注意(貼り薬・塗り薬も)

市販の痛み止めや一部の風邪薬に含まれるNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)には注意が必要です。イブプロフェン、ロキソプロフェン、ジクロフェナク、通常用量のアスピリンなどがこれにあたります。

これらは、妊娠後期に使うと赤ちゃんの血管(動脈管)が早く収縮・閉じてしまうことがあるとされ、添付文書上も妊娠後期は禁忌(使ってはいけない)と位置づけられています。さらに2022年には、医薬品医療機器総合機構(PMDA)の指示による添付文書の改訂で、妊娠中期の使用でも胎児の動脈管収縮のリスクがあることが追記されました。この注意は、飲み薬だけでなく、貼り薬や塗り薬などの外用薬でも同様に指摘されています。

つまり、腰痛や頭痛のときに「湿布くらいなら」と自己判断で使うのも避けたい、ということです。市販薬を選ぶときは、痛み止めの成分がアセトアミノフェンかどうかを確認し、分からなければそのまま薬剤師に相談するのが安心です。

咳・鼻・のどの症状への対処

薬に頼る前にできる生活面のケアも、症状をやわらげる助けになります。いずれも風邪そのものを治すものではありませんが、つらさを減らして体を休めやすくする、という位置づけです。

  • のどの痛み・せき:部屋の乾燥を避け、こまめに水分をとる、うがいをする、温かい飲み物でのどをうるおすなど。加湿も乾燥対策として役立ちます。
  • 鼻づまり:入浴や蒸しタオルで鼻の通りが楽になることがあります。横になるときに上半身を少し高くすると、鼻づまりが和らぐこともあります。
  • 発熱・だるさ:まずは休養と水分。厚着で無理に汗をかくより、快適に休める室温・服装に整える方が体は楽です。

市販ののどスプレー・トローチ・鼻炎薬・せき止めなども、成分によっては妊娠中に注意したいものがあります。「外用や口の中のものだから大丈夫」と決めず、使う前に薬剤師へ確認しておくと安心です。

こんなときは早めに受診を(受診の目安)

ふつうの風邪は自然に軽くなっていくことが多いものの、次のような場合は様子見にせず、早めに医療機関へ相談してください。妊娠中であることを必ず伝えるようにします。

  • 38℃以上の高い熱が続く、または急に高熱が出た
  • 強い倦怠感、関節や筋肉の痛みを伴う
  • 息が苦しい、呼吸が速い、胸が苦しい
  • 水分がとれない、食事がまったくとれない、尿が極端に減っている
  • せきが長引く、黄色や緑色の濃い痰が続く
  • おなかの張りが強い、出血がある、胎動が普段と明らかに違うと感じる

どの科にかかればよいか迷うときは、まずはかかりつけの産婦人科に相談すると、内科の受診が必要かどうかも含めて案内してもらえます。

インフルエンザが疑われるとき

38℃以上の発熱に、頭痛・関節痛・筋肉痛・強い倦怠感などが急に加わったときは、ふつうの風邪ではなくインフルエンザの可能性があります。妊娠中はインフルエンザで重症化しやすいと報告されており、早めの受診が勧められています。

インフルエンザの抗ウイルス薬は、発症からおよそ48時間以内の使用が効果的とされています。時間の経過が関わるため、「インフルエンザかもしれない」と思ったら、早めに医療機関へ連絡し、妊娠中であることを伝えて受診の相談をするとよいでしょう。妊娠中の薬全般については、妊娠中の薬の考え方もあわせてご覧ください。

相談できる窓口:妊娠と薬情報センター

「この薬を飲んでしまったけれど大丈夫か」「風邪のときにどう対処すればよいか」を専門的に相談できる公的な窓口として、国立成育医療研究センターの「妊娠と薬情報センター」があります。これは厚生労働省の事業として設けられているもので、全国の拠点病院に「妊娠と薬外来」が設置されています。

妊娠・授乳中の薬について不安があるときは、かかりつけの産婦人科や薬剤師のほか、「妊娠と薬情報センター」(国立成育医療研究センター)に相談する方法があります。(参照:国立成育医療研究センター 妊娠と薬情報センター

不安を一人で抱え込むより、こうした窓口や薬剤師を「調べる前に相談できる相手」として活用すると、必要以上に心配せずに済むことが多いものです。

風邪をもらわないための予防

いちばんの対処は、そもそも風邪やインフルエンザをもらわないようにすることです。特別なことではなく、基本的な感染対策の積み重ねが土台になります。

  • 手洗いをこまめに行う
  • 人混みや、体調の悪い人との近い接触をできるだけ避ける
  • 睡眠と栄養を保ち、体を冷やしすぎない
  • 部屋の乾燥を避け、適度な湿度を保つ

インフルエンザについては、予防接種という選択肢もあります。日本で使われているインフルエンザワクチンは不活化ワクチンで、妊娠中のすべての時期において、希望する妊婦さんに接種が行われています。受けるかどうか、時期をどうするかは、かかりつけの産婦人科と相談して決めるとよいでしょう。くわしくは妊娠中のインフルエンザ予防接種で整理しています。

まとめ

妊娠中の風邪は、「薬は一切だめ」でも「市販薬でとにかく抑える」でもなく、成分と時期を確認してから対処する、という考え方が現実的です。基本は休養・水分・栄養で、解熱鎮痛が必要なときの第一選択はアセトアミノフェンとされています。一方でNSAIDs(イブプロフェン・ロキソプロフェンなど)は妊娠中期以降にとくに注意が必要で、貼り薬・塗り薬も含めて自己判断は避けます。高熱が続く、息が苦しい、水分がとれない、インフルエンザが疑われるといったときは、様子見にせず早めに受診してください。判断に迷うときは、かかりつけの産婦人科・薬剤師・妊娠と薬情報センターに相談することが、遠回りのようでいちばん安心できる方法です。

Dr.つのみ|臨床系専門医が執筆・監修しています。

免責事項

本記事は、妊娠中の風邪・咳に関する一般的な医学情報を、公的機関や学会などの情報にもとづいて整理したものです。個々の診断・治療・薬の使用可否を判断するものではなく、医療機関での診察・相談に代わるものではありません。症状や薬の使用については、必ずかかりつけの産婦人科医・薬剤師にご相談ください。掲載している情報は執筆時点のものであり、最新の添付文書・ガイドラインと異なる場合があります。緊急性のある症状があるときは、速やかに医療機関を受診してください。

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