けいれんが起きたら舌を噛まないように口へ何かをはさむ、そしてとにかくすぐ救急車を呼ぶ──こうした対応が、家庭のなかで長く語り継がれてきました。日本小児神経学会「熱性けいれん(熱性発作)診療ガイドライン2023」では、口の中には何も入れないこと、吐いたもので気道がふさがれないように横向きに寝かせること、そして「5分」という時間を目安に判断することが整理されています。この記事では、熱性けいれんが起きたときの手順、救急車を呼ぶ目安、落ち着いたあとの受診の考え方、そして解熱薬・予防接種の扱いまでを、公的な整理にもとづいて順に見ていきます。
結論:まず押さえておく3つのこと
1. 口の中には何も入れず、横向きに寝かせる
けいれん中に舌を噛み切ることはほとんどないとされています。口に物を入れる対応は、舌を奥へ押し込んだり、口の中を傷つけたりする側に働きます。
2. 時計を見て、続いた時間をはかる
判断の軸は「はげしさ」ではなく「長さ」です。5分という目安が、ガイドラインでも受診・搬送を考えるひとつの区切りとして扱われています。
3. 5分以上続くなら、救急車を呼ぶ
5分以内におさまり、そのあと意識がはっきり戻ってきた場合は、あわてて夜間に駆け込むより、日中に小児科で相談するという選択もあります。
熱性けいれんとは何か
熱性けいれんは、発熱にともなって起きるけいれん発作のうち、髄膜炎や脳炎といった中枢神経の感染症、代謝の異常など、ほかの明らかな原因がないものを指します。日本小児神経学会のガイドラインでは、生後6か月から60か月(5歳)ごろまでの子どもに起きるものとして整理されています。
頻度は決して低くありません。日本小児神経学会のガイドラインでは、わが国での有病率は最大9%と整理されています。国内の調査による幅は3.4〜9.3%で、欧米の報告(2〜5%)と近い値を示した調査もあります。数字に幅はありますが、クラスに数人はいる規模のできごとだと考えてよい範囲です。
多くは数分以内におさまり、そのあと意識が戻っていきます。発熱そのものは、風邪・突発性発疹・手足口病など、ごくありふれた感染症が背景にあることが大半です。
熱の出はじめ、体温が上がっていく局面で起きやすいという特徴があります。「熱に気づいた直後にけいれんが起きた」という順序は、めずらしいことではありません。
起きたときの手順
順番に落ち着いて進められるよう、行動を5つに分けて整理します。
1. 平らで安全な場所に、横向きに寝かせる
ソファやベッドの上より、床のほうが落下の心配がありません。周囲に硬いもの・とがったものがあれば遠ざけます。
顔と体を横向きにして、あごを少し上げる姿勢(回復体位)をとります。吐いたものが気道に入るのを避けるための姿勢です。
2. 首まわりの衣服をゆるめる
ボタンやスタイをはずし、呼吸がしやすい状態にします。
3. 時計を見て、時間をはかる
何時何分に始まったかを確認します。けいれんの最中は時間の感覚が実際より長く感じられやすいため、時計かスマートフォンの時刻を見ることが、あとの判断を助けます。
4. 様子を観察する
医療機関に伝える情報として、次の点が役に立ちます。
- 体の左右どちらかだけが動いていたか、全身だったか
- 目はどちらを向いていたか
- 顔色・唇の色
- 続いた時間
- けいれんが止まったあと、どのくらいで意識が戻ったか
可能であればスマートフォンで動画を撮っておくと、言葉で説明するより正確に伝わります。ただし撮影を優先して、寝かせる姿勢や時間の確認が後回しにならないようにします。
5. おさまったあと、意識と呼吸を確かめる
呼びかけへの反応、呼吸の様子を見ます。しばらくぼんやりしている、そのまま眠ってしまう、という経過はよく見られます。呼吸が落ち着いていて、少しずつ反応が戻ってくるなら、その場で強く揺さぶって起こす必要はありません。
避けたい対応
長く言われてきたけれど、いまは勧められていない対応があります。
| よく言われてきた対応 | いま整理されている考え方 |
|---|---|
| 舌を噛まないよう口に箸・タオル・指を入れる | 入れない。舌を奥に押し込む、口の中を傷つける側に働く |
| 名前を大声で呼び、体を揺さぶって起こす | 揺さぶらない。けいれんが早く止まるわけではない |
| 押さえつけて動きを止める | 押さえつけない。関節や筋肉を痛める可能性がある |
| 冷たい水を飲ませる・薬を飲ませる | けいれん中は飲ませない。誤嚥につながる |
| 人工呼吸・心臓マッサージをする | けいれんそのものに対しては不要 |
けいれんの最中にできることは、けがを防ぎ、気道を保ち、時間をはかることに限られます。止めようとする行為は、いずれも役に立ちません。
救急車を呼ぶ・すぐ受診する目安
次のような場合は、救急車を呼ぶことが勧められています。
- けいれんが5分以上続いている
- 短いけいれんでも、意識が戻らないまま繰り返している
- 呼吸の様子がおかしい、顔色や唇の色が悪い状態が続く
- 体の左右どちらか一方だけのけいれんである
- けいれんが止まったあとも、意識がはっきり戻らない
- 手足の動きに左右差が残っている
- 生後6か月未満、または6歳以上ではじめて起きた
また、けいれんは短時間でおさまっても、次の場合は当日のうちに医療機関で相談することが勧められます。
- はじめてのけいれんである
- 同じ発熱のあいだに2回以上起きた
- 頭を強く打ったあとに起きた
- 首をいやがる、うなじが硬い、ぐったりしている
けいれんを起こしたのが5歳以上で、その後もけいれんを繰り返す場合や、熱がないときにも起きる場合には、てんかんを念頭に小児神経の専門医への相談が勧められています。
発熱そのものの受診の考え方は、赤ちゃんの発熱|受診の目安と家庭でのケアにまとめています。
落ち着いたあと、よくある疑問
また起こしますか
日本小児神経学会「熱性けいれん(熱性発作)診療ガイドライン2023」では、再発率が2つに分けて整理されています。再発を予測する因子をもたない場合は約15%、予測因子をもつ例も含めた全体では約30%です。
再発を予測する因子として挙げられているのは、次の4つです。
- きょうだいや親に熱性けいれんの家族歴がある
- 生後12か月未満ではじめて起きた
- 熱に気づいてから発作までの間隔が1時間以内だった
- 発作のときの体温が39℃以下だった
いずれかにあてはまる場合、再発の確率はおよそ2倍以上になるとされています。
言い換えると、全体でもおよそ7割は繰り返さず、予測因子がない場合は85%ほどが一度きりで終わります。繰り返した場合も、その多くは同じように数分でおさまります。
てんかんになりますか
熱性けいれんの大多数は、就学前後までに起こらなくなっていきます。熱性けいれんの既往がある子どものその後のてんかん発症率は2.0〜7.5%程度と整理されており、一般の子ども(0.5〜1%)より高い一方で、90%以上はてんかんを発症しません(ガイドライン2023)。
ここで押さえておきたいのは、熱性けいれんを繰り返した結果としててんかんになるのではない、という点です。ガイドラインでも、熱性けいれんがてんかんへ「進展・移行」するという捉え方は明確に否定されています。けいれんを早く止められなかったから、回数が多かったから、という理由でてんかんになるわけではありません。共通の体質が、あるときは発熱時の発作として、あるときは熱のない発作として現れるという整理です。
そのうえで、5歳を過ぎてからのけいれん、発熱をともなわないけいれん、左右差のあるけいれんなどが続く場合には、専門医の評価が勧められています。
解熱薬を早めに使えば、けいれんを避けられますか
解熱薬を使うことで熱性けいれんの再発を抑えられる、という根拠は示されていません。解熱薬は、あくまで子どもがつらそうなときに、その苦痛を和らげる目的で使うものとして整理されています。
熱が上がりきる前にけいれんが起きることが多いため、「熱を下げれば起きない」という考え方は、時間の順序と合っていません。
予防接種は受けられますか
熱性けいれんの既往があっても、予防接種は受けられます。ガイドライン2023では、当日の体調に留意すれば、最終発作からの期間にかかわらず、すべての予防接種を速やかに受けてよいと整理されています。かつては数か月の観察期間を置く考え方がとられていましたが、現在の整理は異なります。
なお、自治体の案内や古い解説には「最終発作から2〜3か月あける」という記載が残っていることがあります。手元の情報と行き違いが生じたときは、かかりつけの小児科に確認してください。
接種のタイミングや、けいれんの回数・状況によって配慮が必要なことはあるため、母子健康手帳に経過を記録し、かかりつけの小児科に伝えたうえで判断します。定期接種の時期は未就学児の予防接種スケジュールを参照してください。
保育園・幼稚園に伝えておくことは
いつ・どのくらい続いたか、そのときの様子、医療機関でどう説明されたかを共有しておくと、園で起きたときの対応が具体的になります。座薬などを預けている場合は、使う条件を書面で明確にしておきます。
夏に気をつけたいこと
熱性けいれんは発熱がきっかけになるため、夏かぜや胃腸炎で熱が出やすい時期は、遭遇する機会も増えます。あわせて、熱中症による意識の異常は熱性けいれんとは別のもので、対応も異なります。
暑い環境に長くいたあとに具合が悪くなった場合は、体を冷やしながら、すぐに医療機関へ連絡します。日常の水分補給の考え方も、あわせて整理しておくと落ち着いて動けます。
まとめ
熱性けいれんは、乳幼児期に比較的よく起きるできごとです。家庭でできることは、次の3つに絞られます。
- 横向きに寝かせ、口には何も入れない
- 時計を見て、続いた時間をはかる
- 5分以上続く、意識が戻らない、左右差がある──このいずれかがあれば救急車を呼ぶ
そして落ち着いたあと、何時に始まって何分続いたか、どんな様子だったかを医療機関に伝えます。冷蔵庫や玄関にこの3つを貼っておくだけでも、いざというときに手が動きます。
子どもの発達や体調全般の見方は、0歳児の発達段階もあわせてご覧ください。
Dr.つのみ|臨床系専門医が執筆・監修しています。
本記事の情報は一般的なものであり、医療相談・診断・治療の代わりになるものではありません。個別の症状や状況については、必ずかかりつけ医にご相談ください。緊急性のある症状が疑われる場合は、ためらわずに救急要請・受診をご検討ください。
