妊婦・乳児の防災|備えと避難で気をつけたいこと【2026年版】

防災の備えというと、「大人用の水と食料をそろえておけば、ひとまず安心」と考えられがちで、妊婦さんや赤ちゃんの分は後回しにされやすいものです。一方で、東京都福祉局の「妊産婦・乳幼児を守る災害対策ガイドライン」や日本小児科学会の資料などでは、妊産婦・乳児には母子健康手帳の携行やミルクの備えなど、大人とは別に整理しておきたい項目があると示されています。この記事では、妊婦さんと赤ちゃんに絞って、「何を・どれくらい備えておけばよいか」を、公的な情報をもとにやさしく整理します。

結論:まず押さえたい3つのこと

細かなリストに入る前に、妊婦・乳児の防災でとくに大切な点を3つに整理します。

  • 備えは「最低3日分、できれば1週間分」が目安。電気・ガス・水道が止まっても自宅で過ごせるよう(在宅避難)、水・食料・ミルク・おむつを少し多めにそろえておきます。
  • 妊婦さんは母子健康手帳とマタニティマークを常に携行。母子健康手帳は、被災したときに医療機関での大切な記録(カルテ)の役割を果たすとされています。
  • ミルクは「液体ミルク」という選択肢を知っておく。お湯や調乳の手間がいらず、常温のまま飲ませられるため、断水・停電のときに役立つと案内されています。

この3つを起点に、以下で「妊婦さんの備え」「赤ちゃんの備え」「続け方」の順に、もう少し具体的に整理していきます。

なぜ妊婦・乳児には「別の備え」がいるのか

災害への備えの基本(水・食料・トイレ・明かりなど)は、大人も妊婦さんも赤ちゃんも共通です。ただ、妊娠中の体や生まれて間もない赤ちゃんには、大人と同じ備えだけではカバーしきれない事情があります。

妊婦さんの場合、移動に時間がかかったり、長時間の避難で体に負担がかかりやすかったりします。妊娠初期は外見からは妊娠しているとわかりにくく、周囲の配慮を受けにくいこともあります。赤ちゃんの場合は、食べられるものが母乳やミルクに限られ、体温調節や水分の管理も大人よりデリケートです。

だからこそ、大人用の防災グッズに「妊婦さん用」「赤ちゃん用」を少し足しておく、という発想で整理すると、過不足なく備えやすくなります。すべてを完璧にそろえる必要はありません。まずは公的機関が挙げている項目から、手元にあるもの・ないものを確認していきましょう。

妊婦さんの備え|母子健康手帳とマタニティマークが最優先

東京都福祉局や自治体の妊産婦向け防災資料では、妊婦さんが「常に持ち歩くもの」と「家に備えておくもの」を分けて考えることがすすめられています。

常に持ち歩きたいもの

外出中に被災することも考えて、次のようなものをバッグに入れておくと安心とされています。

  • 母子健康手帳(被災時に妊娠経過の記録として役立つ)
  • マタニティマーク(厚生労働省が案内しているマーク。妊娠初期は外見でわかりにくいため、身につけておくと周囲に伝わりやすい)
  • 健康保険証、またはそのコピー
  • 飲料水、アメなどの手軽な行動食
  • ウェットティッシュ、ビニール袋、携帯トイレ
  • ラジオや小さな懐中電灯、笛、家族との連絡方法を書いたメモ

母子健康手帳は、母子の記録であると同時に、被災したときには医療機関で経過を伝えるための大切な情報源になると説明されています。ふだんから持ち歩く習慣をつけておくと、いざというときに慌てずにすみます。

家に備えておきたいもの(在宅避難の視点)

ライフラインが止まっても自宅で過ごせるように、食料や飲料水は最低3日分を用意しておくことが目安とされています。妊娠中は体調によって食欲が落ちることもあるため、レトルトのおかゆやインスタントの汁物など、口当たりのよいものを少し多めに用意しておくと役立ちます。

常備薬がある方は、いつもの薬を数日分ストックしておくことも考えておきましょう。処方薬については、種類や量を自己判断で変えず、かかりつけの産婦人科や薬剤師に相談しておくと安心です。

赤ちゃんの備え|ミルク・母乳をどう考えるか

赤ちゃんの防災でいちばん悩みやすいのが、ミルク・授乳まわりです。ここは「ふだんどう育てているか」で備えが変わります。

液体ミルクの使い方と保存の注意点

液体ミルク(乳児用調製液体乳)は、お湯や調乳の手間がいらず、常温のまま哺乳瓶に移してそのまま飲ませられるのが特徴です。断水・停電でお湯が用意できないときでも使えるため、災害時の備えとして案内されています。

日本小児科学会は、液体ミルクを使うときの注意点として、次のような点を挙げています。

  • 高温になる場所に置かない(保存環境に気をつける)
  • 使う前に、賞味期限の表示や容器の破損がないか確認する
  • 開封したらすぐに使い、飲み残しは与えない

ふだんは粉ミルクや母乳の方も、非常用に液体ミルクを何本か置いておくと、選択肢が広がります。ローリングストック(後述)で、期限が切れる前にふだんの授乳に使い、買い足していく方法が続けやすいでしょう。

粉ミルクしかないとき・断水のときの考え方

粉ミルクは、衛生上、70度以上のお湯で調乳することがすすめられています(粉ミルクは無菌ではないため、と説明されています)。停電・断水で70度以上のお湯を用意できない場面では、まず液体ミルクがあればそちらを使う、というのが基本的な考え方です。

液体ミルクがなく、どうしてもお湯を用意できないときは、やむを得ず硬度の低い水(軟水)などで対応することもあると案内されていますが、これは「本来の作り方ではない緊急時の対応」です。そのためにも、カセットコンロや水を少し多めに備えておくと、選択肢が保てます。

哺乳瓶を洗浄・消毒できない状況も考えて、使い捨ての哺乳瓶や紙コップを用意しておくとよいとされています。生まれて間もない赤ちゃんでも、紙コップから少しずつ飲ませる「カップフィーディング」という方法があると紹介されています。

母乳の場合の備え

母乳で育てている場合は、水やお湯がなくても授乳できるという強みがあります。一方で、被災時はお母さん自身の水分・食事・休息が不足しやすいため、まずはお母さんが飲み水や食べ物を確保できるようにしておくことが、結果的に赤ちゃんの授乳を支えます。

環境が大きく変わると授乳のペースが乱れることもあります。そうした場合に備えて、母乳の方も非常用に液体ミルクを少し用意しておくと、いざというときの安心材料になります。どちらか一方に決めきらず、「どちらもできる状態」にしておく、という考え方です。

おむつ・衛生・水まわりの備え

ミルクと並んで切らせないのが、おむつと衛生用品です。避難生活では洗濯やゴミ収集がすぐに再開しないこともあるため、多めの備えが役立ちます。

  • 紙おむつ:ふだんのサイズに加えて、成長を見込んで少し大きめのサイズも用意しておくと安心とされています。
  • おしりふき:おむつ替え以外に、手や体をふくのにも使えます。
  • 消臭袋・ビニール袋:使用済みおむつの処理に。おむつと同じくらいの枚数があると便利です。
  • 清潔な水・ウェットティッシュ:手指や哺乳まわりを清潔に保つために。

赤ちゃんは体温調節が大人ほど得意ではないため、季節に合わせて着替えや薄手のブランケット、夏なら汗対策、冬なら防寒を意識して備えておきましょう。着替えは水で洗えない状況も考え、少し多めがおすすめです。

「最低3日分」をムリなく続けるローリングストック

備蓄というと、専用の防災グッズを一度にそろえるイメージを持たれがちですが、政府広報オンラインなどでは「ローリングストック」という方法が紹介されています。

ローリングストックとは、ふだん使う食品やミルク・おむつを少し多めに買っておき、古いものから使って、使った分を買い足していくやり方です。こうすると、常に一定量の備えが手元に残りながら、賞味期限や使用期限が切れて無駄になることも防げます。

備える量の目安は、最低3日分、できれば1週間分とされています。まずは3日分から始めて、慣れてきたら少しずつ増やす、という進め方でも十分です。液体ミルク・おむつ・水・レトルト食品などは、ローリングストックと相性のよい代表例です。

避難所・避難生活で知っておきたいこと

避難所では、まわりに人が多く、授乳やおむつ替えの場所に困ることがあります。近年は、赤ちゃん連れや妊婦さんへの配慮を進める動きが広がっており、内閣府の男女共同参画の取り組みでは、避難所での授乳の状況や必要な支援を把握するための「授乳アセスメントシート」といった仕組みも整えられています。

困ったときは、遠慮せず避難所のスタッフや保健師などに相談してよい、と考えておきましょう。授乳スペースやミルク用のお湯、おむつの配布など、支援につながることがあります。妊婦さんも、体調がすぐれないときは早めに周囲や医療スタッフに伝えることが大切です。

また、家族のあいだで「どこに避難するか」「連絡がとれないときはどうするか」を、妊娠中・出産前のうちに話し合っておくと、いざというときに動きやすくなります。

よくある質問

Q. 防災グッズは、いつから準備すればよいですか。

決まった時期はありませんが、妊娠中に少しずつ整えておくと、産後の慌ただしい時期に慌てずにすみます。まずは母子健康手帳とマタニティマークを持ち歩くことと、水・食料を3日分そろえることから始めるのがおすすめです。

Q. 液体ミルクを一度も使ったことがありません。災害用に置くだけで大丈夫ですか。

いざというときに赤ちゃんが飲んでくれるか、味や飲み口に慣れているかを、ふだんに一度試しておくと安心です。ローリングストックとして、期限が近いものからふだんの授乳に使い、買い足していく方法が続けやすいでしょう。

Q. 完璧にそろえないと不安です。何から手をつければよいですか。

すべてを一度にそろえる必要はありません。母子健康手帳の携行、水と食料3日分、ミルク・おむつの少しの買い置き、この3つから始めれば、大きな部分はカバーできます。足りないものは、次の買い物のときに少しずつ足していけば十分です。

まとめ

妊婦・乳児の防災は、「大人の備えに、妊婦さん用と赤ちゃん用を少し足す」と考えると整理しやすくなります。妊婦さんは母子健康手帳とマタニティマークを常に携行し、水・食料は最低3日分。赤ちゃんは、液体ミルクという選択肢を知っておき、おむつ・衛生用品を多めに、ローリングストックで続けていく。この形をつくっておけば、必要以上に不安を抱えずにすみます。

備えの内容は、赤ちゃんの月齢やご家庭の状況によっても変わります。お住まいの自治体が出している妊産婦・乳幼児向けの防災ガイドやチェックリストも、あわせて確認してみてください。

Dr.つのみ|臨床系専門医が執筆・監修しています。

【ご注意】本記事の情報は一般的なものです。妊娠経過や赤ちゃんの状態、必要な備えは一人ひとり異なります。個別の症状・状況やお薬については、必ずかかりつけの医療機関・薬剤師にご相談ください。災害時の対応は、お住まいの自治体や避難所の最新の案内に従ってください。記事の内容により生じた問題について、当サイトは責任を負いかねます。

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