まずお伝えしたいこと
妊娠中の魚について調べると、「水銀が心配」「マグロはやめたほうがいい」「お刺身は全部だめ」など、情報がとても多くて、どれを信じればよいのか迷いやすいテーマです。
実際、同じように迷う方は少なくありません。情報を見聞きしていても、いざ売り場で一切れを前にすると、「これは食べていいのかな」と手が止まってしまう——そうした声は珍しくありません。知っていることと、安心して食べられる気持ちのあいだには、距離があるものです。
このサイトでは、不安をあおるためではなく、公的機関が示している情報を、できるだけそのままの形で、やさしく整理してお伝えします。読み終えるころには、「魚は控えるべき」という思い込みが、少し軽くなっているといいなと思っています。
結論:妊娠中も、魚は控えすぎないほうがよいとされています
先に結論からお伝えします。
- 魚は、赤ちゃんの発育に役立つ栄養を多く含む食品で、厚生労働省も「注意事項のために魚を食べる量を減らすことのないように」と明記しています。
- 量を意識したほうがよいのは、一部の魚に限られます(クロマグロ・メバチマグロ・キンメダイ・メカジキなど、食物連鎖の上位にいる大型の魚や深海魚、鯨類)。
- 一方で、サケ・アジ・サバ・イワシ・サンマ・ブリ・カツオ、そしてツナ缶やキハダマグロなどは、特に量を気にする必要はないとされています。
- 「水銀が心配な魚」と「生もの(刺身・お寿司)の食中毒が心配」という話は、まったく別の問題です。ここを分けて考えると、ぐっと整理しやすくなります。
つまり、妊娠中だからといって「魚をやめる」必要はなく、ごく一部の魚の量を、ゆるやかに意識するだけで十分、という整理になります。
なぜ妊娠中だけ「魚の水銀」が話題になるのか
魚に含まれて問題になるのは、メチル水銀という物質です。
海の水にはもともとごく微量の水銀が含まれていて、それがプランクトン、小魚、大きな魚へと食物連鎖を通じて少しずつ濃縮されていきます。そのため、寿命が長く、食物連鎖の上のほうにいる大型の魚ほど、メチル水銀の濃度が高くなる傾向があるとされています。
このメチル水銀は、お母さんの体に入ると胎盤を通って赤ちゃんに移行しやすく、赤ちゃんの中枢神経(脳や神経)はメチル水銀の影響を受けやすいと考えられています。だからこそ、妊娠中の方や、近く妊娠を予定している方に向けて、特別に注意事項が出されているわけです。
逆に言えば、一般的な食生活をしている大人にとって、日本人が平均的にとっている水銀の量は、WHO(世界保健機関)が示す目安の半分から3分の2程度とされていて、ただちに心配が必要な水準ではない、と整理されています。あくまで「妊娠中の赤ちゃんへの配慮として、一部の魚の量をゆるめに意識しましょう」という話だと受け止めていただければと思います。
妊娠中、量を意識したい魚(厚生労働省の目安)
厚生労働省は「妊婦への魚介類の摂食と水銀に関する注意事項」(2005年改訂、2010年に対象を追加)の中で、妊娠中の方に向けて、魚の種類ごとのおおよその目安を示しています。
「1回に食べる量を約80gとしたとき、どのくらいの頻度までなら無理なく食べられるか」という形で示されているものを、わかりやすく整理すると次のようになります。
週に1回くらいまでが目安とされる魚
- キンメダイ
- メカジキ
- クロマグロ(本マグロ)
- メバチ(メバチマグロ)
- ツチクジラ・マッコウクジラ など
週に2回くらいまでが目安とされる魚
- ミナミマグロ(インドマグロ)
- キダイ
- マカジキ
- ユメカサゴ
- クロムツ
- ヨシキリザメ など
なお、イルカ(バンドウイルカ・コビレゴンドウなど歯のあるクジラの仲間)の肉は、特に濃度が高いとされ、妊娠中は控えることがすすめられています。日常的に口にする機会は少ないと思いますが、念のため覚えておくと安心です。
ここで大切なのは、これらは「食べてはいけない魚」ではない、ということです。厚生労働省も「食べ過ぎなければ問題はない」という趣旨で説明しています。たまにお寿司屋さんで本マグロを食べたとしても、それで何かが起こるという話ではありません。日々の主菜として、毎日のように続けて食べることを避けましょう、という意味合いです。
特に量を気にしなくてよいとされる魚
一方で、次のような魚は、メチル水銀の濃度が低く、妊娠中も特に量を気にせず食べてよいとされています。
- サケ
- アジ
- サバ
- イワシ
- サンマ
- タイ
- ブリ
- カツオ
- キハダ(キハダマグロ)
- ビンナガ(ビンナガマグロ)
- メジマグロ
- ツナ缶
毎日の食卓に登場しやすい魚の多くが、この「気にしなくてよい」グループに入っているのがわかります。妊娠中も、これらの魚はこれまで通り、安心して楽しんでいただけます。
魚は、良質なたんぱく質や、DHA・EPAといったn-3系の脂肪酸など、赤ちゃんの脳や神経の発育に役立つとされる栄養を多く含みます。「水銀が心配だから魚をやめる」という選択は、こうした大切な栄養まで手放すことになりかねません。控えるのではなく、種類を上手に選びながら、魚を続けるという発想がおすすめです。
「キハダマグロは大丈夫?」というよくある疑問
「マグロ」と聞くと、ひとくくりに避けたくなる方も多いと思います。実際、検索でも「キハダマグロ 妊娠中」と調べる方が少なくありません。
ここは安心していただきたいポイントです。ひとことで「マグロ」と言っても種類によって水銀の濃度は大きく異なり、キハダマグロ・ビンナガマグロ・メジマグロ(マグロの幼魚)は、マグロの中では水銀の濃度が低いとされています。厚生労働省の目安でも、これらは特に量を気にしなくてよいグループに入っています。
スーパーやお弁当でおなじみのツナ缶も、比較的水銀の濃度が低いキハダマグロが使われていることが多いとされています。サンドイッチやサラダのツナを、妊娠中だからと我慢する必要は、基本的にはありません。
量を意識したいのは、あくまでクロマグロ(本マグロ)やメバチマグロといった大型のマグロのほうだと整理すると、迷いが減ると思います。
「80g」ってどのくらい?目安の量
目安に出てくる「1回約80g」が、実際どのくらいの量なのか、イメージしにくいですよね。おおよその目安として、次のように覚えておくと便利です。
- お刺身なら、1人前くらい(だいたい80g前後)
- 切り身なら、1切れくらい
- お寿司なら、1貫や1切れで約15g
たとえば、本マグロのお刺身を1人前食べたら、その週はクロマグロを「週1回の目安」まで使った、というイメージです。
また、複数の種類の魚を食べたときは、厳密に計算する必要はありませんが、「今週は本マグロを少し食べたから、メカジキは控えめにしておこうかな」というように、ゆるく按分して考えれば十分とされています。電卓を持ち出して厳密に管理する、というほどのものではありません。
水銀の心配と「生もの(お刺身・お寿司)」の心配は別の話
ここはとても混同されやすいので、はっきり分けてお伝えします。
妊娠中の魚をめぐる不安には、実は2つのまったく別の問題が混ざっています。
- 水銀(量の問題) … 一部の大型魚を「食べ過ぎない」ように気をつける話。火を通しても水銀は減りません。
- 生もの・食中毒(衛生の問題) … お刺身やお寿司などの生の魚で気をつけたい、リステリアやアニサキス、トキソプラズマなどの話。こちらは「新鮮さ」「衛生」「加熱の有無」が関係します。
つまり、「キハダマグロは水銀の面では気にしなくてよい」けれど、「それを生のお刺身で食べるときは、食中毒の面で別の配慮がある」というように、理由が違う2つの軸で考えると整理しやすくなります。生ものの扱いについては、別の記事でくわしくまとめていますので、あわせて参考にしていただければと思います。
非加熱の生魚そのものが一律にだめ、ということではなく、鮮度や保存状態に気をつけて、心配なときはしっかり火を通す、という考え方が基本になります。
それでも不安なときの、こころの置きどころ
ここまで読んでも、「やっぱり食べたあとに不安になりそう」と感じる方もいらっしゃると思います。その気持ちは、とても自然なものです。
そんなときに思い出していただきたいのは、メチル水銀の注意事項は「一生をかけて食べ続けても影響が出ないとされる量」をかなり余裕をもって設定したうえで、さらに妊娠中の赤ちゃんに配慮して、控えめに示されているということです。「目安を1回超えてしまった」からといって、すぐに何かが起こるという性質のものではありません。
大切なのは、特定の魚だけに偏らず、いろいろな食品をバランスよく食べることです。完璧に管理しようとするより、「大型のマグロやキンメダイは続けて食べない」「それ以外の魚は安心して楽しむ」という、ゆるやかな線引きで十分だと、私は考えています。
もし持病があったり、食事内容について個別に相談したいことがあれば、かかりつけの産婦人科や、健診のときに助産師さん・医師に聞いてみるのも安心です。
まとめ
- 妊娠中も、魚は赤ちゃんの発育に役立つ食品で、控えすぎないほうがよいとされています。
- 量を意識したいのは、クロマグロ(本マグロ)・メバチマグロ・キンメダイ・メカジキなど、一部の大型魚や深海魚です。
- サケ・アジ・サバ・イワシ・サンマ・ブリ・カツオ、ツナ缶やキハダマグロは、特に量を気にせず食べてよいとされています。
- 「水銀(量)」と「生もの(食中毒)」は別の問題。分けて考えると整理しやすくなります。
- 完璧をめざすより、偏らずバランスよく。これがいちばん現実的で、こころにもやさしい考え方です。
「妊娠中は魚を控えるべき」という思い込みを、少しでも手放すきっかけになればうれしいです。
この記事について
本記事は、一般的な情報提供を目的としています。診断や治療、個別の医療判断に代わるものではありません。体調や持病、食事内容について気になることがある場合は、自己判断で控えたり増やしたりせず、かかりつけの医師・助産師にご相談ください。記事の内容は、公開時点で確認できた公的機関の情報にもとづいて作成しています。
Dr.つのみ|臨床系専門医が執筆・監修しています。

